「女性として生きたい」トランスジェンダー「見た目」問題の葛藤 #性のギモン
社会的な認知のずれと「パス度」
山本静香さん(55)は東京・町田でニューハーフパブを経営するMTFトランスジェンダーだ。世間では昨今、外見について発言することはタブー視される風潮があるが、MTFの当事者としては「私たちが社会的な認知を得るためには、むしろ見た目こそが重要」だと率直に話す。 「MTFの人もいろいろ。苦労なく女子トイレに入れる人たちもいます。でも、ラグビー選手のような体形の方が中年になってから性別適合手術を受けたとしても、それで周囲が女性として受け入れるかどうか……」 山本さんは高校卒業後、新宿2丁目のゲイバーに勤務。ニューハーフを売りにした別の店から誘いを受け、22歳の時に女性の容姿で暮らすようになった。ホルモン注射を打ち、豊胸手術を受けた。
今は30代のMTFパートナーがいるが、二人の戸籍上の性別は同じではない。パートナーは性別適合手術を受け、性別も女性に変えた。一方の山本さんは、性自認は女性だが、性的指向は男性と女性の両方あり、精巣は摘出したが、性器は残した。戸籍上は男性のままだ。 「綺麗に見られないとプロとしては失格」という意識で接客業に従事する。そんなニューハーフだからこそ、見た目にはお金をつぎ込んできた。顎、鼻、目。顔まわりだけで300万円ほどかけて整形した。山本さんは「パス度」(外見で性自認どおりに社会に通用する度合い)という言葉を用いてこう語る。 「整形で身体の骨格までは変わらないけれど、顔の肉づきは変わります。見た目だけ女性に寄せて『パス度』を上げていくなら、性別適合手術を受けるより、顔の整形をしたほうが早道ではと思えるくらいです。あくまでもニューハーフのものの見方ですけれど」 ただ、ホルモン治療や性別適合手術には、年齢とお金の問題が降りかかる。
手術費用の壁と実状に合わない制度
形成外科専門医で名古屋市のナグモクリニック名古屋院長の山口悟さんの元には、40代から70代までの中高年が治療を受けたいと訪れる。 「社会の中で自らの望む性別で生きることを、当事者は『埋没する』と言います。個人差はありますが、20代を過ぎると男性としての体型が完成してしまって、ホルモン治療を受けたからといって完全に女性として『埋没』するレベルを目指すのは難しくなる」