「女性として生きたい」トランスジェンダー「見た目」問題の葛藤 #性のギモン
その上、性別の違和を感じる人がすぐに性別適合手術に踏み切るわけではない。現状の制度と実状が合っていないためだ。 性自認の違和を自覚した場合、まずは身体の違和感を解消すべく、MTFの人であれば、女性ホルモンを投与するホルモン治療に進むのが一般的だという。このホルモン治療は自由診療の扱いで毎月数千円がかかる。 手術費用もかさむ。2018年から性別適合手術への公的医療保険の適用が始まったが、保険が適用されるケースはけっして多くないからだ。すでに自由診療のホルモン治療を受けている人は「混合診療」となるため、性別適合手術が保険適用の対象から外される。保険適用外の自由診療では100万円以上の費用がかかる。若い世代など経済的な余裕のない当事者が、費用面で足踏みするケースは少なくない。
さらに、この分野の医師が少ないという問題もある。保険適用で性別適合手術に進むには、事前に2人の精神科医が診断する必要があり、その上でGIDと診断された人が手術を受けるかどうか選択できる。だが、GIDを正確に診断できる目安となる精神科領域のGID学会認定医は全国で十人程度しかいない上、性別適合手術を行える外科医も数えるほどしかいないと山口さんは言う。 「日本では治療への間口が狭い上に、その先も狭い。多くの当事者が迅速に診断を受けられない上に、その先の手術の担い手が、たとえ自由診療であったとしても、極めて少ないのです」 こうした現状を受け、タイなど海外に活路を求める人は少なくない。そんな決断をした人の中には、現職の地方議員もいる。
外見は個性、多様性への理解が必要
「男性の体が嫌で。だから早くお金をためて、性別適合手術を受けたかったんです」 北海道議会議員の渕上綾子さん(47)はそう語る。MTFトランスジェンダーだ。性自認の違和感は幼少時からあった。北海道大学大学院修了後、農林水産省の研究施設に就職。1年で退職し、2001年、札幌のニューハーフショークラブに転職した。ニューハーフショーに関心があったのに加え、性別適合手術用のお金もためやすいと考えた上での決断だった。