「女性として生きたい」トランスジェンダー「見た目」問題の葛藤 #性のギモン
勤務先の女子トイレ使用で職場に通報
「LGBTQ」と総称される性的マイノリティの中で、自分の性別(性自認)に違和があるのが「T」のトランスジェンダーだ。 トランスジェンダーには、男性の身体で生まれたが女性の心を持つ「MTF」(Male to Female)」と、女性の身体で生まれたが男性の心を持つ「FTM」(Female to Male)」がいる。法的に性別を変更するには、自分が認識している性別に身体を適合させる手術が必要になる。かつて「性転換」手術と呼んでいたが、医学的に一致していなかった「本来の性別」に合わせるのが趣旨として性別適合手術と呼称も変更されている。 日本では2003年に成立した性同一性障害特例法により、法令上の性別の取り扱いと、戸籍上の性別記載を変更できるようになった。司法統計によると、性別変更の人数は2004年から2021年までに1万1030人を数え、年々増え続けている。
トランスジェンダーの人たちが生活する上でしばしば困難を覚えるのは、トイレや更衣室など男女別の施設やサービスにおいてだ。とりわけ「MTF」の場合、見た目によって周囲が当惑してしまうことがある。 前出の黒部さんも性別適合手術を受けた後に、当時勤めていた施設の女子トイレを使った際、ビルの保安担当者から職場の上司に通報されたことがあった。その時は理解ある上司に助けられたという。 「(手術後)当初はドキドキしながら公衆の女子トイレを利用していました。今は道を歩いていても、トランスジェンダー当事者であると思われることはありませんが、見た目の重さは私たちには大きいです」
黒部さんは、2013年に性別適合手術を受ける前から、自認する性別である女性に容姿を近づけるべく、また、周囲から自然に女性に見られるよう、努力を続けてきた。女性ホルモンの注射を毎月打ち、全身の脱毛もした。 現在「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」九州支部長を務め、企業や学校などで講演活動をしつつ、トランスジェンダー当事者たちの相談にも乗り、サポートしている。多数の相談を受けてきた経験から、MTFには「骨格や年齢の壁」があると感じる。女性ホルモンの注射を打てば、骨格や顔つきまで変わって女性らしくなれると考える当事者は少なくない。顔つきは少しずつ変わっていくこともあるが、骨格は基本的には変わらない。 「思い描く女性の姿になれずに悶々とし、うつになってしまったり、(性別適合手術を)断念したりということが多いですね」 こうした見た目に関わる問題に対して、自覚的に対応しているのが、接客業に従事する「ニューハーフ」と呼ばれる人たちだ。