FRB金利また据え置き やはり7月が「最後の利上げ」になるのか
米FRB(連邦準備制度理事会)が2会合連続で政策金利を据え置きました。今後の金融政策はどうなるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。
景気認識を格上げ、金融市場の引き締まりに言及
11月1日に発表されたFOMC(連邦公開市場委員会)の結果は、ほぼ全ての市場参加者が事前に予想していた通り、政策金利は現状維持とされ、FF金利(誘導目標上限値)は5.50%とされました。2022年3月の利上げ開始以来、2会合連続での政策金利据え置きは今回が初めてであり、改めて潮目の変化を感じさせる結果でした(2023年6月は政策金利据え置き、7月は利上げ、9月は政策金利据え置き。8月と10月はFOMCなし)。 FRBが発表した声明文は、前回の9月会合から主に2点修正がありました。一点目は、景気認識に関する箇所です。従来、景気については「堅調(solid)」であるとしていたものを今回は「力強い(strong)」に格上げしました。労働市場が順調に回復する中、一向に衰えない個人消費がインフレ再燃の火種になるとの警戒感をにじませた格好です。これは利上げ再開の一つの根拠になり得ると考えられます。 2点目はやや細かい箇所ですが、とても示唆的でした。変更されたのは、金融環境についての現状認識及びリスクです。従来は「信用市場(tighter credit conditions)」の引き締まりが経済活動の重荷になるとしていたものを「金融市場および信用市場(tighter financial and credit conditions)の引き締まりが……」として、9月FOMC以降の急速な長期金利上昇に伴う株価下落、社債価格下落など一連の動きを声明文に盛り込みました。A4用紙1枚程度に収まる声明文に、こうした記述をしたのは、FRBがそれなりに重きを置いたということです。その意味は大きいと考えられます。
利上げ再開「まだ何も決まっていない」繰り返す
ここで9月下旬以降の金利上昇を振り返ると、発端は9月FOMCで示されたドットチャート(FOMC参加者による政策金利の予想値)でした。2024年の中央値は、それまで(2023年末から)1.0%ポイントの利下げを示唆する水準でしたが、それが0.5%ポイントの利下げへと上方修正され、その結果として長期金利は4.5%程度から5%程度まで鋭く上昇しました。その間、ナスダックは直近高値から10%を超える下落を記録し、社債市場も幾分引き締まるなどドットチャートに込められたメッセージは金融市場に響きました。 今回、声明文に「金融市場(の引き締まり)」という文言が加わったのは、最近の長期金利上昇がFRBの利上げを肩代わりする(した)との含意が間違いなくあります。この点についてパウエル議長は記者会見で、持続的な長期金利上昇は金融政策に影響を与え得るため、金融市場を注視すると補足しました。12月FOMC以降の利上げ再開については「まだ何も決まっていない」との回答に終始しましたが、FRB自らが金融市場の引き締まりを注視すると言及した以上、よほど想定を上振れる経済指標が相次がない限り、その可能性は低いと考えるのが自然でしょう。 筆者は7月の利上げが最後になったとの見通しに自信を深めました。現時点で利下げ時期の予想に関して不確定要素は余りにも大きいですが、2024年中に利下げ予想は妥当性を有していると考えられます。
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