小泉八雲の「開かれた精神」次代につなぐ意義…ひ孫「他者への公平で愛のあるまなざしで、多様性を尊重」
代表作『怪談』で知られる明治の作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の没後、今年で120年を迎えた。来秋に放送されるNHK連続テレビ小説「ばけばけ」は八雲の妻がモデルとなり、注目度が高まっている。3年間を過ごした熊本市では研究者らによる講演が開かれ、国内外で息づく八雲の「開かれた精神」を次代につなぐ意義が再確認された。(井上裕介) 【写真】講演する八雲のひ孫の小泉凡さん
2021年2月26日、ワシントンポスト紙の一面トップ記事に八雲の写真が挿入された。一人の黒人女性が見つけた1876年の地方紙の記事に、自分の高祖母が奴隷解放後に体験した苦痛と訴訟の経緯が詳報されていたという内容で、それを書いた記者は当時25歳の八雲だった。
ワシントンポスト紙は、八雲自身も元奴隷の女性と結婚した経験に触れ、早い時期に「奴隷制度と自由」に関する貴重な体験を読者と共有していたことを評価した。
11月16日に熊本市で開かれた記念講演。八雲の直系のひ孫で小泉八雲記念館館長の小泉凡さん(63)(松江市)は、この記事を紹介した上で「他者への公平で愛のあるまなざしで、多様性を尊重する。作品にも底流する八雲のオープン・マインド(開かれた精神)が、近年になってようやく評価されるようになってきた」と語った。
幼少期に両親と離別し、失明や極度の貧困を経験。様々な苦難と、ギリシャからアイルランド、英、仏、米国、西インド諸島を経て来日した異文化理解の旅とも言える人生が、偏見を持たずに相手に寄り添う精神を醸成した。54年の生涯のうち、約20年間をジャーナリストとして過ごした。
2009年にはギリシャで、この「オープン・マインド」をキーワードにした顕彰プロジェクトが始まり、これまでに現代アート展やシンポジウムなどが世界各地で開催されてきた。
コロナ禍で社会の不寛容性や分断が浮かび上がっていた20年11月、南アフリカで開かれたオンラインのシンポジウムには、22か国から約170人が参加。「自分の思っていることだけが真実で、他は不要という思考が顕著にみられる現代社会にこそ、分断とは対極に位置する八雲の思考にある統合性が必要だ」と話し合われたという。