小泉八雲の「開かれた精神」次代につなぐ意義…ひ孫「他者への公平で愛のあるまなざしで、多様性を尊重」
亡くなる5か月前に出版された『怪談』は、世界20か国以上で翻訳され、今も広く読み継がれている。
幼少期、乳母から毎晩のようにケルト民族に伝わる妖精の話を聞かされた八雲は、自然や日常生活の中に霊的なものを感じる日本人の多様な価値観に深いまなざしを向けた。「霊的なものには、必ず真理の一面が反映されている」と、東京帝国大での講義で述べている。
例えば、来日して4年後に出版した著書で紹介した「水飴を買う女」は、全国各地に伝わる子育て幽霊の怪談だ。身ごもったまま墓に葬られた母の亡霊が毎晩、飴屋で水飴を買って墓地に帰る。後をつけてきた飴屋の主人が墓を開けると、母の亡きがらの傍らに生きている赤ん坊がいた。八雲はこの物語を「母の愛は死よりも強い」という不変の真理を表す1行で結んでいる。
こうして世界に発信された日本の怪談の多くは、様々な原典を妻のセツが八雲に語って聞かせたものだ。来日した翌年にセツと出会い、彼女の語り部としての才能に魅せられていった八雲。困窮した没落士族の娘で小さい頃から物語好きだったセツも執筆を支え、夫婦の共同作業の集大成が『怪談』だった。
セツは執筆当時の夫について「その世界に入り、その人物になってしまうのでございました。話を聞いて感ずると、顔色から眼の色まで変るのでした」(『思い出の記』)と振り返っている。