進む乳がん治療! 乳がんになっても、切らずに治せる時代が到来している【更年期女性の医療知識アップデート講座】
いよいよ、乳がんになっても切らずに済む時代が到来した。早期乳がんなら、メスを入れない「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法」が保険適用になっている。どんな治療なのか? どんな乳がんなら、この切らない治療が行えるのか? 自身が乳がんに罹患し、がん啓発活動を積極的に行う医療ジャーナリスト増田美加さんが紹介する。
早期の乳がんの割合が増えている! 年間患者は5万人超
私が乳がんと告知されたとき、まず頭に浮かんだのは、「胸をどのくらい切ることになるのだろう?」という不安だった。女性にとって乳房にメスを入れることは、大きなショックであり、恐怖だ。 早期の乳がんの治療では、手術によってがんを切除することが中心だ。主な手術としては、乳房を部分的に切除する手術(乳房部分切除術)や、乳房をすべて切除する手術(乳房全摘術)がある。 けれども、私たち患者にとって、乳房を切除することは心身ともに大きな負担になっている。 手術に伴って起こる出血のリスクもあるし、乳房に傷や変形を残すため、治療後のQOL低下や外見の問題がある。少しでも、患者に負担の少ない治療の開発が待たれていた。 日本女性の乳がんの罹患率は年々増えていて、その傾向はずっと変わっていない。年間の予測罹患数は全国で9万4300人。女性のがん罹患数では、大腸がんを超えて第1位と女性が最も多くかかるがん だ*1。 *1 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」がん罹患数予測 2022年 なかでも0~I期の早期乳がんの割合は増加していて、2020年には乳がんの57.5%と半数以上が早期で見つかっている。早期乳がんの患者数は年間5万人を超えている*2。 *2 日本乳癌学会 全国乳がん患者登録調査報告 2020年 そんななか、早期乳がんに対して「ラジオ波焼灼療法(RFA)」による、体にメスを入れて切ることなく負担を極力かけない(低侵襲)治療の選択肢が新たに加わった。
従来の乳房部分切除手術とRFAは同じ治療成績
ラジオ波焼灼療法とは、がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波帯の電流を流し、発生する熱を利用して、がんを焼灼する治療法のこと。 ラジオ波焼灼療法は、国内で2004年に肝がん治療に初めて保険適用されたあと、今では多くの医療機関で治療が行われている。 2022年には、肺がん、腎がん、悪性骨軟部腫瘍ほかにも使われ、2023年12月に早期乳がんに対して保険適用になった。 ラジオ波焼灼療法の臨床試験には、国立がん研究センター中央病院など全国9施設で372名の患者さんが参加。この試験の5年間の短期成績(乳房内の無再発生存割合)では、従来の乳房部分切除術に劣らない成績だった。 有害事象は、安全性評価の対象になる370名のうち43件が報告されている。術中では重篤ではない熱傷 7 件、術後から放射線治療開始までは、陥没乳頭1件、血腫1件、硬結・乳房硬結10件、出血1件、乳腺炎1件、皮下出血3件、皮膚潰瘍 1 件、疼痛 1 件などだ。 この有害事象のデータを見ると、病変の部位や焼灼の程度、年齢など患者さんの持つ背景によって、決して多くはないが、治療後に引きつれやへこみなどが起こることがわかる。 けれども、この治療最大のメリットは低侵襲と乳房の整容性(形の美しさ)の高さだ。体にメスを入れることなく、乳房内のがん腫瘍を焼いて破壊することで、乳房にメスを入れて切除するのと同等の治療成績が得られることは、私たち患者の心身の負担を考えてもメリットが高い治療だと思う。