少子化でも「教員は増やす必要がある」具体的根拠 「乗ずる数」の改善が多忙化の歯止めになる
教員が多忙なのは、教員の数が足りないから
――少子化の中位推計での公立小学校の教員数について結果を教えてください。 橋本 まずは少子化による「自然減」に任せた場合を計算しました。今の制度では、各学校の学級数によって必要な教員数のかなりの部分が決まるルールになっていますが、ほかにもさまざまな要因があるので、一つひとつ積み上げていきました。学校統廃合などの要因など、そこには複雑な計算が必要でした。細かく説明すると複雑になりすぎるので、ここでは説明を省きます。 結論から言うと、2023年度に42.7万人だった教員数は、「自然減」では2033年度には35.9万人、2043年度には35.6万人となります。20年間のあいだに7.1万人もの教員が減る計算になりました。 ――従来の推計でも、今回の先生たちの推計でも、必要な教員数は違っていても、減ることは同じだと思います。少子化の進行で必要な教員数は減るのだから教員数を増やす必要はない、というのが財務省の主張です。そこを崩せないために、文科省は要求どおり教員数を増やせないでいるわけです。 広田 そうですね。学級数に比例して必要な教員数の大きな部分が決まる従来のやり方だと、少子化が進むと全国の一学校あたりの学級数が減っていくので、教員を増やす必要はないように思えます。それが正しければ、現在のような教員の多忙化は問題にならないはずです。教員が多忙なのは、教員の数が足りないからにほかなりません。 2023年5月に、教育学研究者が集まって、「教員の長時間勤務に歯止めをかけ、豊かな学校教育を実現するための全国署名」の運動をやったことがあります。そこでは18万2000筆の署名が集まりました。そのとき署名活動だけでなく、研究者の集まりでいろいろ議論しました。 その結果、一致したのは、「長時間勤務に歯止めをかけるには、教員1人あたりの持ちコマ数を減らすしかない」ということでした。今の状態では持ちコマ数が多すぎて長時間勤務にならざるをえないだけでなく、教員が内容的に深い授業研究をする余裕もありません。これでは「豊かな学校教育」は実現できません。 ――教員1人ひとりの持ちコマ数を減らさなければ、教員は忙しいままだし、豊かな教育もできないということですね。たしかにトイレに行く時間もないという現状では、授業準備も十分にできないし、豊かな教育になりません。 広田 そうです。そのためには、教員の数を増やすしかありません。文科省も財務省も単純な教員の数の話はしますが、そこに「質」で考慮することを忘れています。今回の私たちの論文では、その「質」の問題も大きなテーマとしています。 ――具体的には、「質」を確保するためにも、教員数の決め方をどのようにしていけばいいのでしょうか。 広田 教員の数は基礎定数と加配定数で決まりますが、基礎定数のほうが大きな割合を占めているので、ここでは基礎定数で説明します。基礎定数を決めるときは、学級数に係数をかけて算出されます。この係数が、「乗ずる数」です。 橋本 乗ずる数は学校の学級数で変わるのですが、8学級および9学級の学校で1.249、16学級から18学級までの学校で1.200となっています。18学級の場合なら「18×1.2=21.6」で、21.6人が配置されるわけです。 これに校長1人とか特別の目的で配置される加配教員など、そのほかの定数が上積みされます。乗ずる数の数字が大きくなると各学校に配置される教員数が増えるので、授業担当に空きコマができて、勤務時間中に授業準備やそのほかの仕事をやれる余裕が生まれます。 広田 その乗ずる数は、1993年に少しだけ改善されましたが、それ以降、30年間も変更されていません。少子化で子どもの数は減るのだから、乗ずる数は変える必要がないと考えているのが財務省です。 しかし、この30年間で求められる教育の質は大きく変化しています。昭和の教育から平成の教育へ、そして令和の教育に移ってくる中で、学習指導要領で教員のやらなければならないことは増やされるばかりです。 さらに、教育の質もグレードアップしろとのプレッシャーも増すばかりです。少子化でも、教員のやることは減るどころか増える一方なのです。そのために教員の多忙化は進み、豊かな教育を実現するための余裕も失われています。