少子化でも「教員は増やす必要がある」具体的根拠 「乗ずる数」の改善が多忙化の歯止めになる
5年間かけて乗ずる数を1.387倍へ段階的に引き上げる
――教育の質のグレードアップを言っている文科省には、そのために教員数を増やすという発想はないのでしょうか。 広田 例えば1985年の臨時教育審議会で、改革理念の最初に「個性重視の原則」が出てきます。個性重視のためには教員の負担は大きくなりますが、そのために思い切って教員を増やさなければならないという発想は、当時の文科省にはありませんでした。 当時の文部省初等中等教育局審議官だった菱村幸彦氏に聞き取り調査をしたことがありますが、「(個性重視は)初中局の案件ではありませんでした。(臨教審での)議論の中から出てきたことでしょう。初中局としては、(個性重視で)特別に何かやらなければいけないという認識はありませんでした」との答えでした。今は何とか教員を増やしたいと文科省なりに努力していますけどね。 ――文科省は「仕事を減らせ」という号令をかけていますが、実際には教員がやらなければいけないことは、どんどん増えていって、現在のような状態になっています。このままでは、教員の「働き方改革」どころか、ますます多忙化に拍車がかかることになります。 広田 そこで乗ずる数を変えていって教員を増やして、勤務環境の基礎条件を見直す必要があります。教員の多忙化にストップをかけるには、乗ずる数を改善して教員の数を増やしていく必要があります。 橋本 2022年の教員勤務実態調査によると、公立小学校教員の平日1日あたりの平均在校時間は645分で、法定勤務時間の465分より180分多くなっています。「645÷465」で1.387となりますが、今の乗ずる数を1.387倍に改善すると、理論上は教員の超過勤務時間はゼロに近づいていきます。乗ずる数を改善することで、教員の長時間勤務問題は解消されるわけです。 広田 これを、いっぺんに引き上げるのは予算面でハードルが高い。そこで、2024年度から5年間かけて段階的に引き上げて乗ずる数を1.387倍にしていったらどうか、というのが私たちの考えです。毎年1.0670倍していけば、2023年度に乗ずる数が1.000倍だったところは、2028年度には1.387倍になります。 この計算をしていくと2028年度の教員数は50.5万人、2043年度は45.4万人になります。少子化との関係で2028年度が教員数のピークになりますが、その後の減少幅は小さく、その後の20年以上は教員数約40万人台が維持されると推計しています。 少子化に合わせた教員数の自然減に任せておくと教員不足は悪化するばかりですが、40万人の教員数が継続的に維持できていれば、余裕を持った豊かな教育が実現されるし、教員も家族と夕食をともにするなど生活時間の確保も可能になります。もっと余裕を増やすために、10年かけて乗ずる数を1.5倍にする試算も行っています。 ――財務省は「財源がない」とか「お金をかけても教育の成果は上がらない」と言い続けています。それに文科省も効果的な反論ができていません。乗ずる数の改善についても、財務省は強く反対する気がします。 広田 そうですね。問題は、短期的な視点で財政的に効率的な国家を目指すのか、それとも将来的に大きなリターンを期待する社会投資をする国家になるのか、ということです。効率的な国家を目指すなら、「お金は出さない」となってしまいます。 教育にしっかり予算を投入して豊かな教育を実現していけば、国民の生産性は高まって、最終的には税収額も増えていきます。とくに少子化になっていく中では、生産性を上げるしか国として成長していく道はありません。財務省はそこを考えるべきだし、文科省も強調していく必要があるはずです。 (注記のない写真: zon / PIXTA)
執筆:フリージャーナリスト 前屋毅・東洋経済education × ICT編集部