認知症の母が車にはねられた。一緒にいた統合失調症の兄は行方不明になり警察に保護され…。交通事故被害者を「タダメシ」と言う医師
連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記』でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります * * * * * * * ◆1.兄は警察に保護されていた 前回、認知症の母が統合失調症の兄と一緒に歩いていたら交通事故に遭い、母が救急車で病院に搬送され、付き添っていたはずの兄が行方不明になったことを書いた。私は当日は間に合わず、翌朝病院に駆けつけて初めて、病院に兄がいないことが発覚したのだ。 病院の支払いを終えて母のいる階に戻ると、看護師さんが、面会のフロアで母にお茶を飲ませて、話し相手になってくれていた。なんとありがたいことだろう。 病院の前で待機しているタクシーに乗り、母と自宅に戻ると、兄のケアマネジャーさんとヘルパーさんは家の中にいた。キーボックスから鍵を取り出して先に入ったらしい。ケアマネジャーさんは、「家の回りから押し入れの中まで見ましたが、お兄様はいませんでした」と報告してくれた。 私は「警察に連絡します」と言った。母は「お腹が空いた。コンビニ行く」と言い出した。 その時だった。電話が鳴り、出ると他の市にある警察だった。兄を保護しているので、迎えに来てくれと言うのである。 兄は家に帰ろうと、一晩中方向が分からないまま歩いて、喉が渇き、自動販売機を見つけた。お金を投入したがコーヒー缶が出てこず、自動販売機を蹴飛ばしていて、警察官に注意され、保護されたのである。投入したお金が少なかったのでコーヒー缶が出てこないのは当たりまえだ。自動販売機は警察のあるビルの傍だった。兄は自宅の電話番号と住所を警察官に伝えたのである。
◆何事もなかったように帰ってきた兄 私は、認知症の母が交通通事故にあい、救急車で付き添って行った兄が行方不明になっていたことを話した。統合失調症であることも伝えた。いま、病院から母を連れて帰ったが、認知症があるので外に出ようとしていると伝えた。 すると警察官は、「それは大変だ。お兄さんを家に連れて行きます」と言ってくれた。私はケアマネジャーさんとヘルパーさんにお礼を言い、帰ってもらった。 そして、母と兄の好きなレトルトカレーを茹で、電子レンジでライスを温め、皿に盛った。 兄は何事もなかったように帰ってきた。そして、母と兄は何事もなかったようにカレーライスを食べだした。 しかし、私には用事があった。玄関には警察官がいて、兄のことを正確に記録しなくてはならないので聞いてきた。私は素直に答えるしかなかったが、兄の身長は知っているものの足のサイズは分からなかった。兄に直接聞くと、何のためだと動揺するようでやめた。すると警察官は兄の脱いだ靴を手に取り、自分の靴の裏に合わせ、「僕と同じサイズだな」と言って用紙に書き込んだ。 警察官に「2人も抱えて大変ですね。あなたは体を大切にしてくださいよ」と言われた。