「日本の水産業に求められる正直さ」 北三陸からウニを世界へ #知り続ける
3.11以降、かつて豊かだった海を取り戻そうと、海藻がなくなってしまう「磯焼け」問題に取り組んできた下苧坪之典(したうつぼ ゆきのり)さん。磯焼けの原因の1つである身のやせたウニを再利用する養殖方法が軌道に乗り、もう間もなく市場に出せるところまできた。 そんな下苧坪さんが新しく挑戦しているのは、最近注目されている水産物の産地偽造問題だ。震災の風評被害に苦しんできた経験から分かる「海産物が持つストーリー」を伝えることの大事さ。産地の「見える化」で今の水産業に一石を投じたい下苧坪さんに話を聞いた。(Yahoo!ニュース Voice)
日本の水産業に今起きている問題「磯焼け」
「水産業にはさまざまな課題がありますが、その中でも私が一番大きいと思っているのが『磯焼け』です。」(下苧坪さん) 「磯焼け」とは、繁茂していた海藻が著しく減少、消失して岩が露出してしまうこと。海藻は自然には再生せず、沿岸漁業に大きな打撃となる。 「30年前、私が中学生の時には、岩手県洋野町の海には本当に豊かな海藻が広がっていました。海藻のおかげで、そこをすみかや餌にする高品質な魚やウニが獲れ、この地域は潤っていました。そんな原風景が、今となってはもう皆無に等しい状況です。 普段、魚やウニを食べている消費者の皆様は、この磯焼けに関して、恐らく聞いたことがない方も多いのではないかと思います。だからこそ今、海の中の海藻が干上がって“磯焼け”の状態になっていること、海の中の循環が破壊されていることを伝える必要があると考えています。」(下苧坪さん)
磯焼けの解消のため 挑戦し始めたウニ養殖
この磯焼けの大きな要因というのは、未だ解明はされていないという。 「生活排水が大きく変わったりとか、地球温暖化によって水温が高くなってしまい、生えるはずの海藻が生えなくなったという理由や、せっかく海藻が生えても、増えすぎたウニがその海藻の芽を食べてしまうといった食害も原因ではないかと言われています。ウニは英語で“Sea urchin”と言うのですが、“海の悪ガキ”という意味なのです。ウニは目の前にある物を何でも食べ尽くしてしまいます。」(下苧坪さん) そこで下苧坪さんは、このウニによる磯焼けを何とか食い止めようと思い、まずは原因であるウニを獲り尽くした。そしてその獲り尽くした場所に海藻が生える土壌を整備し、綺麗になった土壌の周辺に昆布の種を植えて、新たに海藻を生やしていく作業を行った。 磯焼け海域に生息しているウニを割ってみると、ウニの中に身が入っていない。餌となる海藻がないためだ。もともと、こういったウニは駆除対象として廃棄されていたが、下苧坪さんたちは、再利用する方法にたどり着いた。 廃棄予定だった葉物野菜や昆布の根っこを集め、パウダー状にして「再資源化した餌」をその駆除対象のウニに与え、身を太らせてから出荷する“ウニ養殖事業”を4年前に始めたのだ。これまでゴミ扱いされていたウニが、お金に変わるかもしれないという期待に変わった。