「日本の水産業に求められる正直さ」 北三陸からウニを世界へ #知り続ける
「ウニ養殖事業は岩手県と北海道でスタートしました。最初は参画してくれる漁師さんが非常に少なかったのですが、磯焼けが進行して海の中の状況が日に日に悪くなる中で、新しい取り組みに挑戦していかなければならないという考え方をご理解いただけるようになり、今となってはたくさんの漁師さんにご協力、ご支援をいただいています。」(下苧坪さん) これまでの4年間は実証実験を積み重ねてきた段階で、今年の秋口には初めての「出荷に向けたウニ養殖」がスタートするという。ようやく技術開発が形になるところであり、この養殖の取り組みと味を知ってもらおうと、都内のレストランなどに持ち込み、料理人たちに実際に養殖ウニを食べてもらう活動が始まっている。
養殖ウニを実際に食べた料理人の反応は
「我々もたまに海に行った際に、ウニが海の中にたくさんいるのを見かけますが、ほとんど身が入ってないウニが多い。天然の物であっても、いい餌がある生育環境がないと身が入ってきません。ですので養殖ができたというのは、すごく画期的なことだと思います。 しかも、本来は廃棄する予定だった野菜や昆布の根っこを餌として、上手に使って循環させるすばらしい取り組み。味も天然物と比べても遜色ないぐらいに濃くて、甘味がつよく仕上がっていると思います。」(宮下さん)
復興進む岩手から世界へ挑戦 水産業に今求められる正直さ
下苧坪さんの商売の原点は、曽祖父が60年ほど前に取り組んでいたワカメの加工販売だ。2010年に水産物を加工販売する「ひろの屋」を創業したが、翌年、東日本大震災で被災をしてしまう。「曽祖父のDNA」を感じて身を置いた水産業だったが、いきなり困難な状況となった。 「震災後にさまざまな地域で岩手県産の天然のワカメを販売してきましたが、当時は風評被害で物がなかなか売れませんでした。地域の食材の背景について、「どんなところで」「いつ獲れて」「どういう人が加工しているのか」を本当に詳しくお客様に対面で伝え続ける時間が長く続きました。 今は国内であればまったく問題はないと思いますが、やはり海外で販売する時にはどうしても「津波、福島第一原発の事故の影響はないの?」という話がゼロではないと感じています。」(下苧坪さん) そこで下苧坪さんは、経済産業省やシステム開発の会社と一緒に、水産物のトレーサビリティシステムの開発に着手した。ウニのパッケージにQRコードをつけて、生産地の情報として「いつ」「どこで」「誰によって作られたのか」が見られる仕組みだ。 「トレーサビリティのシステムを作ることで、お客さまの安心安全を担保するという品質と、この地域の産品のストーリーの両方を伝えます。水産物のトレーサビリティに関しては、各加工業者、生産者がすぐにでも取り組まなければならない課題です。何とかこの1年、2年で、国を挙げて、水産業に関わる生産地の正直さを伝えていきたいと思っています。 水産物の生産地表示に関しては、昨今ニュースでもかなり騒がしく報道されています。私は「いつ」「誰が」「どこで」獲ったのか分かるように、お客様に表示をしていかなければ、これからも簡単に産地偽装が行われてしまう、そんな危機感を感じています。」(下苧坪さん)