水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」スイングバイ時の観測データが描き出した水星磁気圏の様相
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)は2024年10月3日付で、水星探査ミッション「BepiColombo」(ベピ・コロンボ、ベピコロンボ)の探査機による第3回水星スイングバイ時の観測データを分析したパリ天文台プラズマ物理研究所(LPP)のLina Hadidさんを筆頭とする研究チームの研究成果を紹介しています。 第4回水星スイングバイ時の画像
BepiColombo(ベピ・コロンボ)とは?
BepiColomboはヨーロッパの水星表面探査機「Mercury Planetary Orbiter(MPO)」と日本の水星磁気圏探査機「Mercury Magnetospheric Orbiter(MMO、みお)」の2機による日欧共同の水星探査ミッションです。ここに両探査機の水星周回軌道投入前までの飛行を担当するヨーロッパの電気推進モジュール「Mercury Transfer Module(MTM)」が加わり、現在の3機は縦に積み重なった状態で飛行を続けています。 このミッションでは探査機を水星周回軌道へ投入するために、地球・金星・水星で合計9回のスイングバイ(※太陽を公転する惑星などの重力を利用して軌道を変更する方法)実施が計画されています。全体では6回目となる第3回水星スイングバイは日本時間2023年6月20日に行われ、水星の夕方側から夜側へと進入したBepiColombo探査機は表面から約235kmまで接近しました。
水星磁気圏内の様相が明らかに
研究チームは第3回スイングバイ時に取得された「みお」の「プラズマ粒子観測装置(MPPE)」の観測データとプラズマ粒子の数値シミュレーションを組み合わせて観測されたプラズマの起源を特定し、水星磁気圏内の様相を明らかにしました。 JAXAによると、スイングバイの前半では事前に予測されていた低緯度境界層(※太陽風が自由に流れる領域と磁気圏の境界)が観測されていますが、アメリカ航空宇宙局(NASA)の水星探査器「MESSENGER(メッセンジャー)」の観測データをもとにした想定よりも広範なエネルギーを持つ粒子が観測されました。 続いて水星の磁気圏に補足された高エネルギーのイオンが水星の赤道平面付近や低緯度で観測されていますが、これらは部分的もしくは完全なリングカレント(※磁気圏に捕捉された荷電粒子が作る電流、環電流。地球にも表面から数万km半れた場所に存在することが知られている)ではないかと考えられています。水星の磁気圏は惑星のサイズに対して小さく、表面から数百km以内に粒子が補足され続ける仕組みはまだ明らかではないといい、MPOと「みお」が水星の周回軌道に入ってから観測を行うことでより多くの知見が得られると期待されています。 また、第3回水星スイングバイではMPPEを構成する「イオン質量分析器(MSA)」の観測対象である惑星起源イオン(※微小隕石の衝突や太陽風との相互作用などによって惑星の表面から飛び出した中性粒子がイオン化したもの)の観測も行われました。惑星起源イオンの観測は惑星表面とプラズマ環境のつながりを調査することと同義であることから、今後の観測に期待が寄せられています。