新型コロナ対応の現場に“和み”を 医療従事者に似顔絵贈るイラストレーター
「入院患者を元気づける似顔絵を描いてみないか?」 似顔絵の国際大会(白黒部門)で4度、頂点に立ったイラストレーターの村岡ケンイチさん(38)が病院関係者から声を掛けられたのは14年前のこと。以来、全国の病院を回り、患者や医療従事者の似顔絵を描き、ときに緊迫した場面になることも多い医療現場の空気を和ませてきた。その村岡さんは、感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルスと日夜向き合う医療従事者の似顔絵も描いている。現場から報告したい。(取材・文:佐藤大)
村岡さんは、病院や介護施設の入所者や職員の似顔絵を描く「似顔絵セラピー」を行ってきた。
複数の医師らによると、似顔絵セラピーによって、被写体となる患者らの病状が好転するなどの医学的なエビデンス(根拠)はまだない。しかし、似顔絵を描いてもらうことによって患者らが笑顔になったり、心が癒されたりといった効果はあるという。 これまでに3000人以上の絵を描いてきた。「前向きな気持ちになってもらえるっていうことは、描かせて頂いた私も嬉しい」。これまでの活動を村岡さんはこう振り返る。
コロナ禍の医療従事者たちを描く理由
村岡さんはこれまで、主に病と闘う患者とその家族を似顔絵で元気づけてきた。その村岡さんが昨年5月、「似顔絵を飾っていただくことで、精神的に楽になってもらいたい」との思いから描くことを決めたのが、新型コロナウイルス患者への対応に追われる医療従事者たちの似顔絵だった。 似顔絵セラピーには、「1つの難しさがある」と村岡さんは語る。それは、体調を崩したり、疲弊したりした表情の被写体を“そのままの姿”で描き、それが似ていたとしても描かれた人は心の底から喜ぶのだろうか、という疑問だ。 自問自答、試行錯誤を繰り返して、村岡さんがたどり着いた画風が『笑顔の似顔絵』。被写体との対話の中から、元気だったころや、輝いていたころのイメージを膨らませキャンバスに描くことだ。 その『笑顔の似顔絵』で、コロナ禍の医療従事者たちを描くと決めた。