人間は差別するものなのか? ハンセン病と新型コロナ、重なる構図
新型コロナウイルスのまん延により、「日常」は一変した。そんな中、感染者や医療従事者、そしてその家族に対する偏見・差別が表面化する事態が起きた。それも1度や2度ではない。特定の病の患者らに対する不条理な扱い、偏見は過去にもあった。例えばハンセン病。身体の一部が変形するなど今回のウイルスとは症状が異なるものの、患者本人に加え家族も差別にさらされたという構造は重なる。テレビ記者としてハンセン病の元患者らを19年に渡り取材してきた三重テレビ放送の小川秀幸報道制作局長(54)に考察いただいた。 ***
周囲まで及ぶ偏見
「患者の方やご家族の家に石が投げ込まれてガラスが割られたり、壁に落書きをされたり、嫌がらせを受けたりということが起こっています」 4月20日に三重県庁で開かれた新型コロナウイルス感染症に関する庁内会議での鈴木英敬知事の言葉である。投石や落書き……いったいいつの時代の話なのか? と思うと同時に、私が取材のテーマにしているハンセン病問題と重なった。 時代を反映してか、新型コロナウイルスに感染した人に対しては、目に見える差別に加えてSNSによる攻撃も。インターネット上の差別問題に取り組み、感染者の相談にも応じている「反差別・人権研究所みえ」の松村元樹事務局長によれば、ネット上には「投石、落書きは当然の制裁」「人権などあるものか」「見せしめが必要」といった書き込みが多数見つかったという。 新型コロナとハンセン病……急性疾患か慢性疾患か、治療法が確立されているか否か、など異なる面はあるものの、本来保護されるべき感染者が偏見・差別にさらされる点は共通だ。そして、感染者の家族や関係者が忌避(きひ)・迫害の対象になる点も同じ。
SNS上では「コロナ一家いい加減に」「親族一同ゴミクズ」「勤務先を公開すべき」という書き込みが見られるほか、医療従事者の子どもが保育園への登園を断られるケースもあった。さかのぼってハンセン病に目を向ければ、患者の出た家が村八分にされ引っ越しを余儀なくされたり、家族が就職や結婚という人生の節目で差別を受けたりした。 家族も感染している(する)に違いないという憶測と必要以上の恐怖心が、排除の動きを加速させたのではないだろうか。患者の家族まで“遠ざけて”おけば、自分が新型コロナで命を落とすリスクは減る、天刑病や業病といわれたハンセン病にかかって蔑(さげす)まれることはない。