異例の学術書「VTuber学」編著・岡本健さんインタビュー 歴史・哲学・ビジネス…研究することで見えてくるもの
百花繚乱の創造性・想像性
――『VTuber学』(岩波書店)は特にどういう内容を集めましたか? 第3部は理論編として、哲学の諸分野から迫ってもらいました。私が編者としてここで伝えたかったことは、哲学、心理学、社会学などと一言に言っても、それぞれ多様であるということです。ここでは、分析哲学、美学、中世哲学といった様々な哲学ジャンルから論じてもらいました。同じ哲学というジャンルで、同じVTuberを扱っているのに、異なる論じ方がなされます。これが学問の面白さの一つです。 第2部は社会学や文化人類学などの分野で、社会調査、フィールドワーク、参与観察などを専門とする研究者に書いてもらっています。表象文化論の先生にも書いていただきました。表象文化というのは、なんらかの形で表現されたものの総体を指します。VTuberは小説、アニメ、漫画、映画、ゲームなどにも描かれます。つまり、VTuberというフィクショナルな存在がフィクションの中に登場する。それは一体どういうことなのか、何が表現されているか、ジェンダー論の観点からも分析してもらいました。 ――多様な観点があるなか、岡本さんのご関心を教えてください。 私はアニメの聖地巡礼で博士号を取ったんですが、その後にゾンビの研究をやって、そして今回はVTuberを論じました。すべてに共通しているのは、当事者の方々が生み出す創造性(クリエイティビティ)と想像性(イマジネーション)です。 アニメの聖地巡礼は、ただ単にアニメの舞台になった場所に人がたくさん訪れて経済効果が上がるというだけの話ではありません。地域の人たちとアニメファンの人たちが交流を始めて、そこから面白いイベントやグッズが生まれるんですよ。人と人が出会って面白いものを作ったり、素敵なことが起こったりする。私はそれにすごく惹かれるんです。 ゾンビ研究については、有象無象のめちゃくちゃなゾンビ映画がたくさんあります。予算が潤沢でないことが一因なんですが、その中でも新人の監督や俳優が一生懸命頑張って、クリエイティビティを発揮して面白いものを作ろうとする。そのあふれだすチャレンジ精神の成果を見て、意味を取り出すのが本当に楽しいんですね。 VTuberもまさにそういうものなんです。配信が技術的に可能になってから、たくさんの人がこの文化に参入して、いろんなことをやっている。その百花繚乱の様々な創造性(クリエイティビティ)・想像性(イマジネーション)を見る・見られる。そういう文化であるところが一番魅力的だと思ってます。