異例の学術書「VTuber学」編著・岡本健さんインタビュー 歴史・哲学・ビジネス…研究することで見えてくるもの
情報工学から文化人類学まで
――岡本さんはご自身の存在を明かしていますが、匿名の人が多いのも特徴だそうですね。自分の顔を出さずに、声を変えて活動できます。そうした匿名性というのは、VTuberにとってどういう意味を持つでしょうか? VTuberは基本的に中の人を詮索しないのが一つのルールになっています。ただ、これもVTuberさんやファンの方によって、様々な考え方があるんです。VTuberさんの虚構性・キャラクター性が高い場合はそれを楽しむところがあるので、あまり中の人の人間性を出しません。 一方で、虚構的な設定があるにもかかわらず、中の人の人間性がちょっと透けて見えるところに面白さを感じられる場合も多いんです。例えば、清楚な学級委員長のようなキャラのVTuberでも、実は中の人はやんちゃなことをする部分がある場合。最初はキャラクターの設定を守ろうと頑張るわけですが、長く続けているとだんだん素が出てきてしまうわけです。そうすると、視聴者からは本当はこういう感じの人なんだなと見えてくる。その見た目とのギャップが面白くてウケていることもよくありますね。 ――VTuberを論じる時にはどのような学問でアプローチできるのでしょうか? 分野はかなり幅広いんです。例えば、いろいろな技術が使われているので、理系的な情報工学の技術を研究することもできます。あるいは、VTuberのキャラクターはどういったものが好まれるかなど、印象評定をする心理学的な研究もある。私の専門の観光学では「コンテンツツーリズム」という言葉があるんですが、そのような観点でVTuberが人を動かすメカニズム、地域振興への活用方法などの研究もできます。 他にもVTuber同士がどういうかかわりの中で暮らしているのか、文化人類学的な研究も考えられます。法律を適用する時にはどういう存在だと考えるべきかといった法学の問題もある。VTuberをメディア、コンテンツ、コミュニケーションのあり方の一つだと捉えると、本当にたくさんの研究のアプローチがあり得ます。