城氏が語る「五輪代表のメダル期待値と残された課題」
左利きの特長を生かし左にカットインしながら、キーパーの動きを冷静に観察してジャマイカディフェスが重なってボールが見えなくなるブラインドの位置を探していた。 左足の膝下だけを使い、前方にいるディフェンダーの足元を狙ってグラウンダーのシュートを蹴った。意識的に一人目の股を抜き、ポジションが重なっていたことで、2人目のディフェンダーもボールが見えずに股を抜かれ、そしてキーパーも死角から出てきたボールに対応できなかった。この日の久保は、非常にシンプルに周囲をうまく使っていた。五輪代表チームにおける自分の役割は何か、を知り、その確信を得たゲームだったのではないだろうか。 問題は、この2列目とFWとの組み合わせである。 先発した前田とのコンビネーションは悪かった。しかし、後半から前田に代えて投入された上田は、後半12分に絶妙のタイミングで飛び出し、三笘のスルーパスに反応。技ありのループシュートを決めた。上田はボールを収めるポストプレーもでき、一発でディフェンスラインの裏をとる爆発力もある。FWのポジションを射止めたのは上田だろう。FWを2人選ぶのではあれば、推進力を持ち前へいける林と、この上田の2人が有力なのかもしれない。 OA枠の3人も存在感を示した。冨安が不在だったが、吉田は、声のコーチングで最終ラインをまとめ、右サイドの酒井宏も攻撃力で揺さぶった。前にいきすぎる酒井が、その空いた裏を突かれる危険性があるが、五輪でのメダル獲得への期待値は高まった。 そのメダルの色をより金メダルへ近づけるための課題は、細部の精度を突き詰める作業だろう。たとえば、パスを右足に出すのか、左足に出すのかで、スピードもタイミングも変わってきて、強豪国との対戦では、勝敗を分ける。そこができていないためスピードダウンしてしまうシーンも目についた。まだパスの精度も、そのパスを受けるタイミングも未完成である。細部の精度を上げれば、流れるような好守の切り替えや攻撃も可能になる。言い方を変えれば、そこにチームが進化できる伸び代がある。 個々のポテンシャルの高いチーム。7月22日の南アフリカとの初戦まで、ホンジェラス(7月12日・ヨドコウ桜スタジアム)、スペイン(7月17日・ノエビアスタジアム神戸)との強化試合が2試合残っている。18人のメンバー発表後は、ベスト布陣を組み、この2試合で連携力を高めれば、チームが加速的に強くなる可能性があるだろう。 (文責・城彰二/元日本代表FW)