相席スタート・山﨑ケイ「手に入るか分からないことにお金と時間を費やす」不妊治療の不安とは?
2022年4月、不妊治療の保険適用が開始された。日本産科婦人科学会によると、2022年に実施された不妊治療(体外受精)で生まれた子どもは7.7万人で、10人に1人が体外受精で生まれていることになるという。お笑いコンビ・相席スタートの山﨑ケイさんも、保険適用制度を活用して不妊治療を行った一人で、40歳で第一子を出産している。不妊治療を経験したことのない人との会話で「マウントを取られたと感じてしまった」という山﨑さんに、高齢出産による体への負担や精神的なつらさ、不妊治療への理解などについて伺った。(取材:たかまつなな/笑下村塾/Yahoo!ニュース Voice)
「年相応に難しい」と言われた最初の検査
――妊活をしようと決めたきっかけは何ですか? 山﨑ケイ: 38歳で結婚したから、年齢のこともあって不妊治療をしている人のことや、高齢になると妊娠しにくいことは知っていました。夫は5歳年下なので、結婚するときに当たり前に子どもができるわけではないことは理解してもらっていたんですけど、結婚して半年か1年ぐらい経ったとき、夫から子どもを持つにしても持たないにしても、一回ちゃんと考えようと言われて話し合うことにしました。それでお互いに問題があるかないか調べてみようと検査に行ったという感じかな。 その結果、何か病気があるとか、そういうことはなかったんです。ただ、卵巣の状態とか卵子の数とか、妊娠する能力みたいなものを数値で出す検査で、お医者さんから「すごく年相応ですね」って言われて。妊娠しやすい年齢のグラフを見せられて「年相応に結構難しいですよ」って最初にしっかり説明されました。でも、お互い問題があるわけじゃないなら、頑張ってみようかみたいな感じで病院に通い始めました。 ――妊活をすることは、相席スタートの相方である山添さんにはどう伝えたんですか? 山﨑ケイ: 相方にも迷惑をかけるかもしれないから、そのまま言いました。言いやすい関係性だったし、相方の仕事も忙しくなってきたタイミングだったから、言いやすい環境ではあった。でも不妊治療という言葉はちょっと重いかもしれないから、妊活を本格的にさせていただきますと言ったら、「ケイさんが思うとおりに好きなようにしてください」って。「悔いのないようにやってもらって、仕事を休むというときには全然休んでください。そういうときのためにピンネタもありますので、どうぞどうぞ」という感じで。マネージャーは女性だから話しやすくて、「もちろん協力させていただきます」と言ってくれて。 ――周りの理解があってよかったですね。仕事をセーブすることに対して悩みはなかったですか? 山﨑ケイ: うちは落語家の夫も私も収入が不安定だけど、そんなことも言っていられないというか。自分1人と子ども1人の分ぐらいだったら、死にものぐるいで働いて、夫も仕事をしていないわけじゃないから、お金のことはあとで考えるとして、自分の妊娠する能力ができるだけ高いうちにするしかないんだと。婦人科検診のブライダルチェックで数値が低くて、タイミング法で全然できなくて、やっぱりできないかもしれないというのをちょっとずつ突きつけられるんですよね。だから最終的には仕事への不安というより、とにかく子どもができればいいみたいな気持ちが強くなっていきました。 ――不妊治療をしているときの生活はどんな感じなんですか? 山﨑ケイ: 体外受精では採卵と言って卵子を取り出すんですけど、卵子を大きくしたり増やしたりするために、ほぼ毎日何かしらの注射を打つんです。すごく痛かったとか、割と夫には愚痴を言っていたかな。それよりも子どもができないことへのストレスが一番大きいかったですね。絶対に手に入るもののためなら安心してお金をかけられるけど、手に入るか分からないものにお金と時間を費やしていることだったり、私の年齢がたぶん原因だったから、それがつらかった。そういう気持ちを酔っ払って泣きながら話したこともありました。夫もなんて声をかけていいか分からなくてつらかったと思います。 他にもよく言われることですけど、知り合いの妊娠を素直に祝えなかったりして、そんな自分に対する自己嫌悪みたいなものとか、精神的に落ち込みましたね。ネットで見たんですけど、フランスでは不妊治療をするとき精神科医がついたりするんだって。そういうのはすごく大事だと思いますね。 ――心が折れそうなときに支えになったことはありますか? 山﨑ケイ: 仕事をしていたことで気が紛れたのは私にとってはよかったかな。あとは、夫との仲は良かったからそれは救いだったかな。夫が「もちろん子どもができたら嬉しいけど、二人だったとしても楽しく生きていけるよ」と言ってくれてすごく嬉しかったです。子どもがいたら海外旅行もあまり行けないだろうし、子どもがいないことで手に入る自由もあるから。そういう部分を二人で共有できたのはよかったと思います。 ――家族や友人など、周囲からの声かけで嬉しかったことはありますか? 山﨑ケイ: こっちから言わない分には、「子どもは?」とか聞かないでいてくれるのはありがたかったかな。あとは不妊治療で奥さんが子どもを産んだという男性芸人と話すのが結構楽しかった。女性同士だと言いにくいこともあったんだけど、芸人の世界ってオープンだから、うちも実は不妊治療でさとか、うまくいかないときもあったけど今は元気に育っているよとか、そういう話を聞くことが息抜きになっていたかな。 不妊治療をしたことがない人と会話をしていると、きっとそんなつもりじゃないのに私自身が言葉尻に敏感になっちゃって「今のってすごいマウント取られたんだけど」って思うことがあるんです。だからそういう人たちにはあまり言えなかったし、言わないほうがお互いのためだったかな。