震災ボランティアから「ヨソモノ・ワカモノ」議員へ――新市議たちが見つめる石巻の未来 #知り続ける
東京で営んでいた仕事は顧客一人ひとりに頭を下げ、後輩や取引先に引き継いでもらった。11年12月には石巻に住民票を移している。 人と情報が集まる地域の拠点をつくりたいと、一般社団法人を設立。地域づくりを続けてきた。政治への思いは、日々の活動のなかで徐々に芽生えていったという。 「自分のところには地域のいろいろな困りごとが届いていました。でも、町内会長に相談すると『そんなの必要ない』と。ほかにも、若者の声が通らなかったり、移住者の力を活用できずにチャンスを逃したり、もどかしい思いをすることが多かった。自分の声に力が持てれば、街をもっとよくできると思ったんです」 こうして原田は、前回18年の市議選立候補を決意する。内々に意見を聞く「瀬踏み」では、地域の顔役を含めて多くの人が背中を押した。だが、いざ出馬表明した際に直面したのは強烈な「ハシゴ外し」だったという。 「親戚の兼ね合いがあっからさ」「昔からあの人の後援会に入ってて」「表立ってよその人は推せないんだ」――。 友人や、それでも応援してくれた地域の仲間に支えられて戦い、951票を得たが落選。それからの4年間も再び地域と向き合い、今回は約400票を積み増した。 前回から原田を応援してきたという近隣に住む男性(84)はこう言う。 「私らは震災のときからずっと見てきて信頼してたけど、やっぱり前は警戒する人もいた。それでも、落選してからも地道に変わらずにやっている姿はみんな見ていたよ」
今回の石巻市議選は、定数30に43人が立候補する激戦だった。現職候補のうち市議会第一会派と第二会派の会長がそろって落選、宮城県議を6期務めるなどした地元政界の重鎮も苦杯をなめた。代わって当選したのが8人の新人候補。なかでも、東日本大震災の復興支援活動で石巻を訪れ、そのまま移住した3人がそろって当選を決めた。原田のほか、36歳の都甲マリ子、39歳の谷祐輔(年齢はいずれも投開票日時点)。全立候補者のなかで最も若い3人が加わったことで、議会の平均年齢は64.8歳から57.9歳へと一気に6.9歳若返った。そして何より、固い地縁・血縁が当落を左右すると言われる市議選を、震災後に移住した3人が勝ち抜いたことは大きな驚きを持って迎えられた。 地方政治の取材経験が長い全国紙記者はこう話す。 「東北は強固な地縁社会で、選挙は『地区割選挙』になりがちです。地区の代表を立て、親戚・町内会・元同級生などの人間関係のなかで票を集める。人柄や仕事ぶりが評価されていても、『ヨソモノ』が当選を勝ち取るのは至難の業です」 だが、風は吹いた。元ボランティアの市議は岩手県陸前高田市などで先行例があるが、3人の同時当選は異例中の異例だ。