芸能や演芸は役に立たないと言われても、「笑いはやっぱり必要」――福島出身の落語家・三遊亭兼好と席亭の11年 #知り続ける
「3.11」から11年。東北に生まれた人間にとって、この日を迎えることは、「この1年をどう生きてきたか?」を問う日でもある。宮城出身のわが家にとっては姉の命日。冥福を祈りつつも、実家を失って故郷が遠くなってしまったことを実感する。故郷とどうつながるのか? ということを考えるのは切ない。福島には、「笑い」の力で故郷を昂揚させようと尽力するひとがいる。一人は福島出身の落語家、三遊亭兼好師匠。もう一人は市内の繁華街にある「鬼平茶屋 もめん亭」店主の立花八重子さんだ。落語という芸能を通し、震災以前から以降、そしてこれからの福島への思いをたどった。(取材・文:生島淳/撮影:木村雅章/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
女将さん手作りの落語会「もめん亭寄席」
「雪の日は、お店を開けるのを迷います。でも、お昼ごはんを食べにお店の前まで来て、『休みか……』と分かったら、がっかりしますよね。だから、お客さんが来るかどうか分からないけれど、お店を開けています」 福島市にある居酒屋「鬼平茶屋 もめん亭」の主、立花八重子さんは言う。震災から10年の猶予を許さずに襲ってきたコロナ禍は、福島の町にボディーブローとストレートパンチを同時に浴びせているように見える。 もめん亭がある福島市の置賜町は、福島駅からも近く、周囲には福島県庁、福島県警本部、日本銀行をはじめとした金融機関の店舗が並んでいる。本来であれば、夜になれば街はにぎわいを見せる場所だ。 しかし「まん延防止」期間中は、一転して街は静けさに包まれた。もめん亭も夜の営業は休止。かつては落語会「もめん亭寄席」で人が集う場所であったが、2020年2月8日を最後に休席となっている。
元々、落語や演芸が好きだった立花さん。落語を聞いた余韻をもっと、もっとみんなで分かち合いたかった。福島に文化の根を生やしてほしかった。それならば、自分の店に高座を作ってしまおう。 こうして2010年3月、隅田川馬石師匠を招いての第1回「もめん亭寄席」が開かれた。