男性の育休取得率、どう変化している?「25年間で1%未満から13%に増加」
半年前より育児休業制度が大きく変わり、今年4月1日には、大企業に対して育児休業の取得状況を公表することが義務化された。男性の育児休業制度はこれまでどのような変遷をたどり、社会にどう受け入れられてきたのか。1990年代に市で唯一の男性保育士になり、当時は男性の取得が珍しかった育児休業を積極的に取得した経験を持つ、大阪教育大学教育学部教授の小崎恭弘さんに聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
世界的に見ても日本の育児休業制度は整っている
――小崎さんは1990年代に男性保育士として採用されたとのことですが、当時男性保育士はごく少数だったそうですね。 小崎恭弘: 1991年に兵庫県西宮市の公立保育園で、男性保育士第1号として採用されました。女性保育士は300人いて、男性は僕1人だけ。全国には40万人ぐらいの保育士がいて、その約1%が男性と言われていました。まだ「保育士」という名称ではなく「保母」と呼ばれていた時代。男性の場合は「男性保母」と呼ばれていました。辞令も保母職と書かれていましたから、男性がなることを想定していないということですよね。保育の現場にいる男性は、保母の資格は持っていない通園バスの運転手さんや体操のお兄さんだけでした。 資格として女性がなることしか想定されていない背景には、育児や保育は女性がやるものという社会的なコンセンサスがあったということでしょう。保育園に子どもを通わせるのは、共働きのご家庭がほとんど。それでも育児の中心的担い手は母親で、ごく少数の父親が送迎をしているような状況でした。 ――そんな中で、当時は珍しかった男性の育児休業も取得されました。 小崎恭弘: 僕は3人の子どもがいて、3回とも取っています。長男の時は1998年に取得したのですが、当時は子ども1人につき1年間、育休を取ることができました。妻が産後から育休を9カ月取って、残りの3カ月を僕が取る形にしました。僕からすると、子どもが好きで保育士になったくらいだから、自分の子も自分の手で育てるっていうのは当たり前のことだった。育児休業も当たり前だと思っていたのですが、周りは大騒ぎになりましたね。 ――25年前の育児休業制度はどういったものだったのでしょうか。 小崎恭弘: 1992年に育児・介護休業法が施行された当時から、男性も育休は取得できるように定められていました。しかし、やはり男性の取得率は低く、1%以下だったと思います。休業は認められ、休む前の給与の25%が支給されるものの、社会保険料は払い続けなくてはならないので、取ったら損するという制度だったんですね。 2001年に次男が生まれた頃には給与の50%ぐらいが支給されるようになりましたが、社会保険料は払わなくてはならなかったので、プラスマイナスゼロになったぐらいでしょうか。三男が生まれた頃には、給与の60%が支給されるようになり、社会保険料の支払が免除に。僕が育休を3回取る間にもだいぶ変わってはきましたね。 ――さらに、半年前の2022年10月から、育児休業制度が大きく変わりましたね。 小崎恭弘: 男性をある意味狙い撃ちしている制度「出生時育児休業(産後パパ育休)」ができました。パートナーが出産後8週間の間に、男性だけ4週間まで2回に分けて取ることができます。退院時や里帰りのタイミングなどで、フレキシブルに取れるようになったのです。ヨーロッパ、日米を含めた先進38か国が参加するOECD(経済協力開発機構)加盟国中では、期間も手当ももっとも充実したものになっています。 今までは育児休業は、従業員が会社に「お願いします」と頭を下げて取らせてもらうイメージでした。しかし、今後は従業員が取れるようにしなくてはならないという企業の義務になります。従業員が1000人以上の大企業については、2023年4月から、育児休業の取得率の公表の義務づけも始まりました。企業にとっても、女性が育児で仕事を辞めてしまう、またはキャリアロスになってしまうのは、非常にもったいないことですからね。 ――今後、男性の育児休業取得率はどのように変化していくでしょうか。 小崎恭弘: 世界的に見ても日本の育児休業制度は整っています。今後はどう後押ししていくか、発信していくかが課題だと思います。男性の育休取得率100%をアピールしている企業がある一方で、男性の育休対応のまずさから株価を大きく下げた企業もある。社会全体で育休は男性も取るものであると共有されていく中で、男性の育児もより注目をされていきますよね。 2016年、政府は「2020年までに男性の育児休業取得率13%目指す」という目標を掲げていたのですが、2021年にそれを達成ました。取得率が1%未満だった時代から考えれば、この数値は一定の評価はできます。そして、2020年に新たに設定された目標では、「2025年までに取得率30%を目指す」ということになっています。全体の3割を超えるとブレイクスルーになると思うので、このラインを達成することが重要なのではないかと思います。