冷暖房なし、工具費は自腹。人の命を預かっているのに――人材不足が深刻化する自動車整備士の窮状
人材不足や賃金面の調査は、具体的には行われていない
人材不足や労働実態について、政府としての対応はどうだろうか。岸田首相は2022年1月13日、東京都内の自動車販売店を訪れ、自動車整備士らと意見交換をした。岸田首相は記者団に、人材育成や新技術による設備投資をしなければならないとしたうえで、「業界全体の収益力の向上とあわせて、働く一人ひとりの賃上げも考えていかなければならない」と話した。ただ、この内容は2014年の閣議決定における提言と変わりはなく、改善は進展していないといえる。 国土交通省・自動車局整備課の担当者はこう語る。 「人材不足や賃金面の調査は、これまで具体的には行われていないんです。ただ、人材不足といった管理の問題に関してどういう対応が必要なのか議論はします。また、環境整備のガイドラインを作成したり、自動車整備士の魅力向上の一環として、自動車点検整備推進協議会などと、全国各地で整備場の経営について話すセミナーを開催したりしています」
国が資格ごとの報酬を作るべきか
「賃金だけ上げても、人はなかなか集まってきません。経営層の年齢が高いこともあり、今の若者が何を求めて働いているのかをあまり知らない事業者が多いのです。若い人は賃金よりも、やりがいやワーク・ライフ・バランスを重要視する傾向があります。『車が好き』や『車がかっこいい』という理由だけでは就職しないのです」 株式会社リクルート(東京都千代田区)の調査研究機関「ジョブズリサーチセンター」の宇佐川邦子センター長はそう指摘する。自動車整備業界の人材採用と定着・育成について、講演や国の検討会での提案を行ってきた。 ジョブズリサーチセンターが2021年10月11~15日に行った「求職者の動向・意識調査 2021(インターネット調査、有効回答数1万4991人)では、仕事探しで重視する点としてもっとも回答が多かったのは勤務日数(休日、休暇)。続く回答は、勤務地、勤務時間帯だった。 宇佐川センター長は、自動車整備業界の労働環境の改善についてこう語る。 「車検を受ける時期は車を購入した月によります。新車販売の年末商戦などを理由に、11月から3月が繁忙期と言われます。また、月末の駆け込みもあり、月の下旬は忙しくなるのです。車検を前倒しして受けられるように企業がキャンペーンを打ち出したり、行政が呼びかけをしたりすれば、残業を減らすことにつながります。他にも、シフトを柔軟にすれば育児中の方なども雇用できるのではないでしょうか。少子高齢化で労働人口が減少していることに加えて若者の車離れが進んでおり、労働者が何を求めているのかを汲み取らないと、人手不足はより深刻化するでしょう。そういった労働環境の整備をして、売り上げや従業員数が増えたところもあります」 「電動化や自動運転といった自動車技術の高度化に合わせて、2027年から整備士の資格要件が大きく変わろうとしています。資格の難易度が上がることで資格等級の価値が上がり、それに見合った報酬や労働環境の改善につながるとよいと考えています」