冷暖房なし、工具費は自腹。人の命を預かっているのに――人材不足が深刻化する自動車整備士の窮状
「囲い込み」でやめたくてもやめられない
菅沼ゆうきさん(仮名、22)は、早く働き始めたいという思いから、東京都にある自動車専門学校の2年制コースに進学。在学中に二級自動車整備士資格(ガソリン、ジーゼル)を取得した。2019年3月に卒業し、翌月から大手自動車メーカーのディーラーで働いている。現在、入社4年目を迎えた。 1日に平均6台の車を点検する。残業が月40時間を超えても、手取りは20万円に届かない。菅沼さんは「国家資格なのにこんなに安いのか」と不満を口にする。 「仕事をやめようとは常に思っていますよ。でも無理なんです。就職説明会の時、『入社すると祝金として20万円あげます』と言われました。実際に入社すると、20万円を貸すということでした。5年間働き続けると、そのお金を返さないでいいんだと。人を囲い込むためにやっているそうです。安月給だったので結局、借りてしまって……。生活がギリギリなので、20万円を返せなくて、やめられないんです」 菅沼さんの会社では、残業が許可されているのは午後10時まで。別店舗の同期社員には、仕事が終わらないため、タイムカードを午後10時に処理し、深夜12時まで残業をしている人もいる。 「人手はギリギリです。会社も若い整備士をなかなか集められず、無資格の外国人労働者を採用するなどしています。中には日本語が全くしゃべれない人もいます」
人材不足の背景にあるものは?
このように現場では人材不足が顕在化している。厚生労働省の「職業安定業務統計」によれば、自動車整備要員(無資格者を含む)の2011年度の有効求人倍率は1.07倍だったが、18年度には4.46倍に膨らんだ。 前出の2人はいずれも専門学校で資格を取得しているが、専門学校に通わないルートもある。高校の自動車科で学んだのち、三級自動車整備士の資格を取得。実務経験を積みながら、二級、一級の試験を受験してレベルを上げていく。自動車科以外で学んだ場合には、三級を取得する前にも実務経験を積まなくてはならない。車検を行うには、二級以上の整備士資格を持つ自動車整備主任者が必要だ。整備主任者が車検の監督やチェックを担うからだ。 人材不足は、自動車専門学校の入学者数からも読み取れる。「全国自動車大学校・整備専門学校協会(JAMCA)」によると、2020年度の自動車専門学校の入学者数は約6300人で、15年前と比べると半減した。 学校側の現状はどうなっているのか。国内外に毎年200人ほどの整備士が輩出している東京都の自動車専門学校が、匿名で取材に応じてくれた。広報で幹部の田中宏さん(仮名)はこう言う。