生物学者・福岡伸一教授が語る「生命は破壊と創造の連続」
化学・日用品メーカーのサラヤ(大阪市)は5月11日、中高生向けに「いのちをつなぐ特別授業」を都内会場とオンラインで実施した。NPOや学校と連携する教育支援プロジェクトの一環だ。生物学者の福岡伸一・青山学院大学教授は講演のなかで、「生命とは『動的平衡』であり、絶えず破壊と創造を繰り返すこと」だと語った。(オルタナ副編集長=吉田広子) サラヤは2022年に教育支援プロジェクト「いのちをつなぐ学校 by SARAYA」を立ち上げ、生命科学や衛生・環境・健康をテーマに、小学・中学・高等学校向けに教材や学びの機会を提供している。 生物学者の福岡教授は、「いのちをつなぐ学校」の校長として、「生命とは何か」をテーマに「いのちをつなぐ特別授業」を行った。 福岡教授は、幼少期から昆虫が大好きで、顕微鏡でミクロの世界を探求していた。昆虫学者を夢見て京都大学農学部に進学したものの、そこで出合ったのが「分子生物学」だった。 40年ほど前の当時、生命を機械としてみなす「機械論」が分子生物学の主流だったという。コンピューターの部品のように、細胞の分子1つひとつが役割を持ち、生命を構成するという考え方だ。 福岡教授は分子生物学者としてキャリアを重ね、1990年には「GP2遺伝子」を発見した。ところが、「生命を分子レベルで研究した結果、視野狭窄に陥り、生命全体が持っている大切なことを見失ってしまっていた」と振り返る。
■ GP2遺伝子が欠けたマウスに異常が出ない
福岡教授は当時、GP2遺伝子の機能を見つけるために、膨大な費用と年月をかけて、遺伝子を欠けさせたマウスをつくった。しかし、そのマウスは至って健康で、異常なデータも現れず、子どもも生まれた。GP2遺伝子が何の役割を持つのか、解明できなかったという。 そこで思い出したのが、「生命は機械ではない。生命は『流れ』だ」とする生化学者ルドルフ・シェーンハイマーの言葉だった。 「機械論では、生命と食べ物の関係は、自動車とガソリンの関係ととらえる。そうであれば、エネルギー収支が合うはずだ。だが、生物が食べた食べ物は、身体の細胞と一体化し、不要な細胞は体外に排出される。生物は、分解と合成を繰り返し、絶えず細胞が入れ替わる。1年前の自分とは、分子レベルではすべて入れ替わっている」(福岡教授)