山崎貴監督『ゴジラ-1.0』と映像制作会社「白組」から見る日本のVFX(視覚効果)・コンテンツ制作の現在地
白組のVFXは、少数精鋭の35人が東京・調布スタジオの大部屋で作業をする。スタッフの規模もハリウッドとは桁違いだが、山崎監督が直接その場で指示を出したり、一緒に検討したりできるので、時間・コストの短縮につながる。ゴジラが上げる水しぶきや波の動きのシミュレーションで注目された25歳のVFXアーティスト・野島達司氏も、監督と直接やり取りしながら、クオリティーを高めていったという。 「予算が増えたからといって、作品がもっと良くなるとは限らない」と田村氏は指摘する。「山崎監督は、限られた資源を上手に使って、しっかりしたドラマとVFXの絶妙なバランスをとることに長けています」
ハリウッドでは、マーベル・スタジオの「アベンジャーズ」シリーズの興行的不振が報じられるなど、VFX大作に食傷気味の兆候が見える。 「そんな中で、VFXだけを売り物にせず、ドラマ重視だったことが評価されたのではないでしょうか。疑似家族とその仲間を描いた家族ドラマとしてよく出来ていた。また、東宝が早くから北米でプロモーションを展開していたことも、受賞の背景にあるのでは」と田村氏は考察する。
「特撮」にこだわった『シン・ゴジラ』
『ゴジラ』を生んだ円谷英二の「特撮」とは、スーツアクター、ミニチュアセットなどを活用した撮影だ。「円谷監督の特撮映画は、厳しい肉体労働や徒弟制度を軸とするシステムから生み出されました。その中で目指す到達点は、“本物”に見せることです」。そう解説するのは、公野勉(くの・つとむ)文京学院大学教授だ。円谷プロダクション・円谷映像でプロデューサーを務めたバックグラウンドを持つ。 「今なら、CGを使えば何でも可能なので、現場でのトライアル・アンド・エラーは無駄だという考え方があると思います。しかし、特撮本来の魅力は、偶然性(現場での予想外の出来事)も取り込みながら、本物に見せる工程にあります」 8年前の『シン・ゴジラ』(庵野秀明氏=総監督・脚本/樋口真嗣監督=特技監督)は、CGを活用しながらも、ミニチュア特撮や本物の火薬を使用するなど「特撮」の継承にこだわっていた。ゴジラ自体は最終的にフルCGになったが、当初は特撮とCGのハイブリッドを試みたという。 「『ゴジラ-1.0』 では、(幻の戦闘機と呼ばれる)『震電』など実物大模型やミニチュアセットを使っています。しかし、山崎監督が意識したのは特撮かCGかではなく、さまざまな創意工夫で、観客を引き付ける映像の力強さを生み出すことです」