山崎貴監督『ゴジラ-1.0』と映像制作会社「白組」から見る日本のVFX(視覚効果)・コンテンツ制作の現在地
次世代の“山崎監督”は生まれるか
公野教授は、“山崎型”の新たなクリエーターが育っていると言う。つまり、「合意形成型でバランス感覚に優れ、資本(映画会社、スポンサー)の要望を上手にクリアして、さらに自分のクリエーティビティも十分に発揮できる」監督だ。 「(円谷プロダクション制作のテレビドラマ)『ウルトラマンブレーザー』の田口清隆監督(44歳)が一例です。ウルトラマンシリーズは、関連オモチャのマーチャンダイジングによる条件が多い。また、子供向けの番組なので、表現にさまざまなレギュレーションがあるでしょう。そうした制約の中でも、面白い作品を作ることができるタイプだと思います」 一方で、若き日の山崎監督のような夢と情熱を持って、映画制作を目指す若者は減ったと言う。 「VFX映画を見るのは好きだが、作りたくはない、という人が多い。映像制作は1チームで5、60人から300人ぐらい関わります。自分の都合を優先するわけにはいかないし、コミュニケーションをとりながら作業するのは面倒くさいと感じる傾向があります。今回の山崎チームの快挙は、若い世代の背中を押す良い刺激にはなるでしょう」
山崎監督の今後とゴジラの続編
「『ゴジラ-1.0』が米国でヒットしたといっても、興行収入は今春公開された『ゴジラxコング 新たなる帝国』の方がはるかに高い」と、VFX評論家の田村氏は指摘する。「そもそも、最初から公開館数や広告宣伝費に大差があるのです」 最近、山崎監督が米大手のタレントエージェンシー・CAA(クリエーティブ・アーティスツ・エージェンシー)と契約を交わしたと報じられた。今後、米国で映画を撮る可能性もあるが、田村氏は、監督が白組から完全に離れることはないだろうと言う。 「『ジュブナイル』以来、山崎作品にずっと注目し、監督に何度かインタビューもしました。自らの映画作りを通して、白組の技術力を向上させる一貫した意図があると感じます。山崎監督が世界に飛躍するには、ハリウッドで大作を撮るより、Netflix、Amazon Prime、Apple TVなどのルートでの世界発信の方が成功率は高いと思います。その際は、当然、白組も参加するでしょうね」 かつて、『風の谷のナウシカ』のように、「世界観から作りあげるファンタジーをいつかやりたい」と語っていた山崎監督(『白組読本』)。壮大な山崎ワールドを見てみたい気はするが、当面気になるのは、『ゴジラ-1.0』の続編だ。 「山崎監督は続編を撮ると思います。その場合、時代は、『-1.0』の物語が終わった1947年から数年後、初代ゴジラが登場する54年の前に設定するのではないでしょうか。山崎ゴジラは1946年米国の“核実験”で巨大化したとしています。これは原爆実験です。初代ゴジラは、54年3月の世界初の水爆実験で巨大化しました。ゴジラをどう生き返らせるのか、初代ゴジラの物語とリンクさせるのか。別の怪獣を登場させるのか。タイトルをどうするのか。いろいろ興味深いですね」
【Profile】
板倉 君枝(ニッポンドットコム) 出版社、新聞社勤務を経て、現在はニッポンドットコム編集部スタッフライター/エディター。