スキンケア時の心地よいタッチで肌が美しくなる:花王が取り組む「心感研究」
化粧水や美容液を塗るとき、手で肌を優しく包み込むようにハンドプレス[1]すると、ふっと力が抜けたり、穏やかな気分になったりした経験が皆さんもあるはずだ。 化粧品には成分や処方によるダイレクトな効果だけでは語り得ない作用があるのではないか。そしてスキンケアで得られる幸福感や満足感は、肌の美しさへと繋がるのではないか。そんな発想から花王は、2015年から心感研究に乗り出した。 実際にこの研究からどのようなことが分かってきたのか。研究員の森河朋彦さんに解説してもらった。
「触覚」はもっともポジティブな感情を高める
ーまずは研究が始まった背景を教えてください。 森河: 私たちは2004年から、心理学や脳科学、スキンケアに伴う行動変容など、さまざまなアプローチで化粧品と感性にまつわる研究を行ってきました。そのなかで2015年に始まったのが「心で感じるスキンケア研究(心感研究)」です。 たとえば、「恋をするときれいになる」「ストレスで肌が荒れる」など、心の変化が肌に影響を及ぼすという通説はたくさんありますよね。 私たちは、スキンケア時に生じる、快感情には単に気分があがるだけでなく、もっとすごい力があると信じていましたので、こういった心の変化が肌に与える影響を科学的に研究することにしました。
ー心感研究では、どんなことが分かりましたか? 森河: スキンケアにおける快感情を喚起する要素は、香りや見た目、テクスチャーなど数多くあります。そのなかでも、スキンケアにおいては触覚がもっとも快感情を高めやすいことが私たちの研究から分かりました。 ー触覚が一番影響があるというのは意外でした。 森河: 触覚というのは原始的な感覚の1つで、ハグ等のスキンシップで気分が落ち着くというのは多くの人に共通していますよね。 そこで私たちは触覚に着目して2種類の心地よい触覚情報を用いて研究を進めました。 1つ目はスキンケア動作です。主観評価だけでなく、脳血流変化量計測といった客観的なデータも含めて検証し、スキンケアでハンドプレスをしたときの心地よいタッチにより、快感情が喚起され、快感情が高く喚起された人ほど肌状態が良くなることを発見しました。 2つ目はスキンケア製剤です。こちらも同様の検証を行ったところ、心地よい感触のスキンケア製剤の使用を通じて快感情が高く喚起され、その程度に応じて、肌状態が向上することが分かりました。また、快感情による肌状態の向上が生じた際には、実際に皮膚内部の遺伝子発現の変化が生じていることも明らかにしました。