スキンケア時の心地よいタッチで肌が美しくなる:花王が取り組む「心感研究」
幸せな肌に欠かせない「オキシトシン」とは
ーどのようなメカニズムで肌状態に作用するのでしょうか? 森河: 可能性の一つとして、オキシトシンというホルモンに着目しています。オキシトシンは、幸せホルモンとも呼ばれ、愛着形成に関与し、ストレスを軽減する効果があると知られています。 私たちの研究では、ハンドプレスで快感情が喚起されると、その程度に応じてオキシトシン量が増えることが示唆されました。
ー幸せを感じやすい人ほど肌がきれいということですか? 森河: そうです。実は普段のオキシトシン分泌が多い人は、肌状態が良く、特に「キメの整い感」「色むらのなさ」「ツヤ」「肌表面のなめらかさ」の4項目が高い傾向にあることが分かりました。
また、2023年にChenらが発表した論文では、オキシトシンが上昇すると、触覚を介した心地よさを感じやすくなると報告されています。 つまり、快感情が喚起されオキシトシン量が増えれば、心地よさを感じやすくなる、そしてその状態でスキンケアを行うと快感情がさらに高まりオキシトシンが増えるという良いスパイラルが生まれるのではないかと考えています。 ースキンケア製剤においては、どんなことが快感情に繋がるのでしょうか? 森河: 心地よい触覚情報を介したオキシトシンの分泌機構を考えたときに、皮膚に存在する2種類の「末梢神経」、つまり、「肌に伸びている神経」が特に重要だと考えています。 ひとつは、優しく穏やかに撫でられる刺激を感知する「C触覚線維」、もう一つは、柔らかさといった圧力などを感知する「Aβ線維」です。実際に、「C触覚線維」が活性化される、優しく穏やかに撫でられることや、「Aβ線維」が活性化される、柔らかいものに触れることで、快感情を生じることが分かっています。そしてこれらが、オキシトシンを増やすことも分かっています。スキンケア製剤においては、柔らかなテクスチャーや使用感が、またハンドプレスのように優しくゆっくりとした速度で肌に触れ、柔らかさを感じることが重要なポイントになってきます。 また、これは私たちも驚いたのですが、心地よさを感じる美容液テクスチャーの製剤感触と、香り、そしてハンドプレスを含めたオリジナルな塗布方法が掛け合わさることによって、たった1分間のスキンケアを行っただけでオキシトシン量が上がり、さらに1ヶ月連続で使用したところ、オキシトシン量が上がりやすくなる傾向にあることも分かりました。また同じ製剤を使っているにも関わらず心地よさの感度が上昇することが分かりました。 ー心地よさへの感受性が上がるということが証明されたんですね。 森河: そうなんです。オキシトシンが増加しやすい状態になっていたと同時に、心地よさの感度も上昇していたことから、オキシトシンを介した好循環が起きていると考えられます。これはヒトが使用した際に、オキシトシン自体の分泌量を増加させるスキンケア(製剤、塗布方法)だからこそ実現できたと考えています。 ー今後、心感研究はどのような展望をお持ちですか? 森河: 化粧品の感性価値にはまだまだすごいポテンシャルがあると思っていますし、それを最大限に発揮させる方法もまだまだあると思っています。なので、触覚についての研究を深めたり、違う感覚に着目したり、あるいは組み合わせによる相乗効果もあると思うので、さまざまな感覚にフォーカスして肌と心の研究を深めていきたいと思います。