横浜F・マリノス中澤が140試合先発フル出場の偉業。鉄人を支えるものとは?
四半世紀を迎えたJリーグの歴史に、おそらくは未来永劫にわたって破られない、偉大なる「鉄人伝説」が刻まれた。横浜F・マリノスの大ベテラン、39歳のDF中澤佑二が1日の大宮アルディージャ戦で、足かけ5年にわたって継続してきた先発フル出場を「140試合」に更新。浦和レッズのMF阿部勇樹を抜いて、フィールドプレーヤーで歴代トップに立った。(GKも含めると最多記録は鹿島のGK曽ケ端準が持つ244試合)。 敵地NACK5スタジアムに試合終了を告げる笛が鳴り響き、偉業達成が決まった瞬間、中澤は握りしめた両拳で小さなガッツポーズを繰り返した。個人的な記録うんぬんは頭の片隅にもなかった。4年ぶりとなる5連勝を手にした喜びが、全身を駆け巡っていた。 「僕が欲しいのは個人の記録よりも、マリノスのタイトルなので。J1で優勝することを目標に置いて、今年1年プレーしている。それを達成して、おまけとして僕の記録がついてくれば一番いいのかなと」 ヴィッセル神戸に勝利し、阿部がもつ「139試合」に並んだ6月25日の前節から脚光を浴びはじめた鉄人記録。もっとも、中澤のなかでは優先順位が極めて低いのだろう。試合後の取材エリアでは「もういいでしょう」と、苦笑いしながら謙遜し続けた。 それでも戦線を離脱するような大けがをせず、常に身心両面で万全のコンディションを作りあげ、さらにはイエローやレッドのカードとも無縁でなければ達成できない大記録。秘訣は何かと問われた元日本代表からは、こんな言葉が返ってきた。 「毎日飯を食って、練習して、寝て、監督にゴマをすりゃあいいいんですよ」 冗談のように聞こえて、実は深い意味が込められている。監督に「ゴマをする」とはイコール、求められる戦術やスタイルをピッチで常に具現化すること。指揮を執って3年目のエリク・モンバエルツ監督は最終ライン、特にセンターバックの2人に攻撃の起点となるビルドアップを求める。 試合後の公式会見で新記録樹立への感想を求められたフランス人指揮官は、チーム最古参の一人である中澤への賛辞を惜しまなかった。 「世界的に見ても素晴らしい記録だ。何を称えたいかと言えば、私が求めるプレースタイルに対して、彼はいまでもパフォーマンスを向上させていること。パスをつなぐ部分がどんどんよくなっている」 練習開始時刻の2時間前にはグラウンドに到着し、ストレッチや体幹などの個人トレーニングを入念に課して不慮のけがの防止に努める。それでも出場110試合を数える日本代表を含めて、長く戦い続けてきた代償は、いまも両ひざに厳重に巻かれたテーピングが物語っている。