横浜F・マリノス中澤が140試合先発フル出場の偉業。鉄人を支えるものとは?
中澤から「お前が中盤で躍動すればチームも勝てる」と檄を飛ばされ続け、6月に入ってからはトップ下で存在感を放ちはじめた入団4年目の25歳、天野純はレジェンドへ畏敬の眼差しを向ける。 「ひざが痛いと言っていますし、居残りとかはあまりできないみたいですけど、それでもキックやパスの練習をしっかりしている。練習のかなり前に来ることを、何年も続けられるのは本当にすごい。真似できない部分がたくさんありますけど、とにかく見習っていきたい」 もうひとつ特筆されるのが、フェアプレーを遵守する精神だ。体を張った激しいプレーは厭わない。むしろすすんで肉弾戦を挑む。しかし、相手にけがをさせかねないラフプレーとは常に一線を画す。そのために日々の練習でファウルに頼らない技術を磨き続け、相手攻撃陣と対峙してきた自負がある。 今シーズンのある試合中に相手選手から顔面にひじ打ちを食らい、その場に倒れ込んだことがある。幸いにも大事には至らなかったが、試合後にはいつもと変わらない淡々とした口調のなかに、珍しく怒りを見え隠れさせていた。 「普通に走っていたら、何でもないところでひじが飛んできた。レフェリーは何で見ていなかったのかな。あれは退場ものでしょう。たとえば目に入っていたら、おそらく骨折するほどのレベルだったので」 求めているのは、敵味方が最高のプレーをぶつけ合う姿をファンやサポーターに届けること。2013年7月6日の大分トリニータ戦からいま現在に至る連続フル出場の過程で、イエローカードは2枚しかもらっていない。若手や中堅の手本であり続ける大きな背中を、モンバエルツ監督は再び称えた。 「チームをメンタル面で引っ張ってくれるリーダーであり、練習でも模範となる姿勢を見せてくれる。日本に来て彼のような選手と出会えたことを、本当に幸運だと思っている」 中澤に統率された粘り強い守備で、前半を0‐0で折り返したアルディージャ戦。均衡を破った後半14分のMFマルティノスの先制点は、自陣のゴール前でピンチをしのいだ直後に中澤が出した、一本の縦パスから発動されたカウンターから生まれている。 2‐0で迎えた同33分には4試合ぶりの失点を喫した。中澤の目の前に巧みに入り込まれたDF菊地光将に頭で決められたが、終了間際に再び訪れた菊地との空中戦を制し、あわや同点の危機を防いだ。一度負けても次は必ず笑う。練習生からはい上がってきた中澤の真骨頂が凝縮された場面でもあった。 中澤がMVPを獲得した2004シーズンを最後に、マリノスはJ1の頂点に立っていない。オフに中村俊輔らの盟友たちが退団。世代交代の過渡期にあるからこそ、結果を積み重ねることでチームのベクトルをひとつに集約させたいと先を見すえる。 「内容うんぬんなんて言っているようなチームではないので。秋まで上に離されず、泥臭くてもいいから勝ち点3を取り続けていくことが大事なので」 青写真通りに前半戦を暫定4位で折り返した。原動力は最少タイの14失点で踏ん張る守備陣。8日から突入する後半戦へ。アルコール類を断った早寝早起きの規則正しい生活と、体の細部にまで微に入り細で目配せする日々、そして崇高な精神が続く限り、中澤が刻む前人未踏の記録はまだまだ更新されていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)