クール便の危機! 溶けたら一発アウト! 冷凍食品ブームに隠された「品質維持」の苦悩、“置き配”すらできない現実とは
悲鳴を上げる宅配業界
運送業界は、産業の裏方である。どんな産業であっても、売るモノが売り手から買い手のもとに輸送されなければ、売買は成立しない。つまり、ビジネスの要を支えるのが、運送業界の役割である。 だから、ある産業が拡大すれば、その拡大を支えるべく、運送業界は人知れず奮闘してきた。だがその奮闘も、現在日本社会が直面している人手不足、そして物流クライシスによって、限界を迎えつつある。拡大する冷食マーケットの一部、冷凍冷蔵食品のEC・通販における宅配を担うクール便も、そのひとつだ。 当たり前なのだが、クール便には商品を冷凍・冷蔵状態を保持したまま輸送できる冷凍冷蔵車両が必要になる。冷凍冷蔵装置を装着していない配達車両でも利用可能な、クーラーボックスタイプの輸送箱もあるが、融解事故の懸念もあり、すべてのクール便荷物を完全にカバーできるわけではない。特に冷凍食品を安心して運ぶためには、冷凍冷蔵機能を備えた専用車両が必要となるが、専用車両はそうそうかんたんに増車できないという事情がある。 同様の課題は、宅配車を送り出す宅配各社の営業所でも発生している。メーカーや商社、EC各社の物流センターなどから出荷された冷凍冷蔵食品は、宅配便各社の中継拠点を経由し、営業所へと輸送され、配達されるまで一時保管される。例えば佐川急便では、この年末年始の需要増に備え、各営業所で冷凍冷蔵食品を一時保管するための冷蔵冷凍コンテナを200個以上、臨時増設したという。
ドライバー負担を減らしにくい課題
あくまで宅配全般の話ではあるが、現在実施されている配達ドライバーの負担を減らす対策は、大きくふたつある。ひとつは、再配達の削減。もうひとつは、配送リードタイムの確保である。 再配達の削減については、消費者への啓蒙活動のほか、宅配ロッカーの設置や、置き配の推奨などが行われているが、クール便については、宅配ロッカー・置き配の利用は難しい。というのも、冷凍冷蔵食品は、 「対面手渡しが基本」 だからである。冷凍冷蔵機能を備えた宅配ロッカーも開発されているが、市井(しせい)にはまだごくわずかしか普及していない。置き配については、衛生的な問題はもちろん、融解してしまうため、論外である。 配送リードタイムの確保についても解説しよう。現在、政府主導でゆっくり配送などと呼ばれる、注文から配達までのリードタイムに余裕を設けるサービスを推進している。 これは宅配に限ったことではないのだが、輸配送には繁閑の差が生じる。配達荷物がたくさんあり忙しい日もあれば、荷物が少なく比較的余裕を持って配達できる日もある。注文から配達までのリードタイムに余裕をもたせることで、配達における繁閑の差を平準化し、配達ドライバーへの負担を減らすことが狙いである。 ところが、こと冷凍冷蔵食品に関しては、この配送リードタイムの確保が難しい。前述のとおり、宅配各社の営業所(あるいは物流センター)における冷凍冷蔵食品の保管庫はスペースに限りがあるし、また冷凍冷蔵食品については、配送リードタイムが長くなればなるほど、融解などにともなう品質低下のリスクが高まるからだ。つまり、クール便は、 「配達ドライバーの負担を減らすための対策が実施しにくい」 という構造的課題を抱えている。