なぜJ3のFC岐阜は”問題児”の柏木陽介を獲得したのか?
リリースのなかで綴られた、再出発を期す不退転の覚悟を柏木との話し合いを通じてひしひしと感じた宮田社長も、同じリリース内で「深い反省と決意を確認いたしました」とこんな言葉を紡いだ。 「さまざまな話をするなかで(中略)柏木選手から『FC岐阜の勝利とJ2のみならずJ1昇格のためにすべてを捧げる』という、熱い真摯な想いをプレーで現すとの決意も聞いております。(中略)一日でも早く岐阜の地に慣れ親しんで、チーム活動とともに種々の活動にも頑張ってもらいたいと願っています」 新型コロナウイルスの感染防止策として、近隣のコンビニエンスストア以外への外出および外食が禁じられ、県内全体に独自の緊急事態宣言が出されていた沖縄・金武町でのトレーニングキャンプ中の2月4日に、元日本代表FW杉本健勇(28)とともに飲食店を借り切って外食していた規律違反が発覚した。 クラブから科された処分のなかで、杉本に対しては帰京後に練習参加禁止が解除された。しかし、昨秋にも禁止されていた家族以外の知人との会食が判明し、厳重注意処分を受けていた柏木に対して、団結力と規律を重視するリカルド・ロドリゲス新監督はチームへの受け入れを拒否した。 浦和で居場所を失った窮地で手を差し伸べ、完全移籍で獲得してくれた岐阜への感謝の思いと、今シーズンに自分自身を、そして周囲を納得させられる結果を残せなければもう後はない、背水の陣にも通じる柏木の悲壮な思いは、浦和から発表されたリリースのなかにも色濃く反映されていた。 「今日で浦和レッズを離れますが、FC岐阜でサッカー選手として、人として成長し、これまでの弱い部分を克服して、また埼玉スタジアムでプレーできるように努力します」 数え切れないほどの思い出を刻んだ浦和のホーム、埼玉スタジアムで次にプレーするのは、言うまでもなく岐阜をJ1へ導いた自分と決めている。J1リーグで出場した392試合のうち、浦和だけで「311」を数えた輝かしいキャリアもすべて捨て去り、信頼を取り戻すために一心不乱で戦っていく。 Jリーグ側への選手登録の都合上、開幕戦には間に合わない柏木は調整が順調に進めば、敵地・藤枝総合運動公園サッカー場で21日に行われる、藤枝MYFCとの明治安田生命J3リーグ第2節からサッカー人生をかけた、未知の舞台となるJ3リーグでの戦いをスタートさせる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)