開幕5戦5発の大久保嘉人はC大阪の何をどう変えたのか?
敵陣右サイドの深い位置からクロスが放たれた瞬間に、セレッソ大阪のリザーブに名前を連ねていたFW加藤陸次樹(むつき)は味方のゴールを確信した。一挙手一投足を追いかける大先輩、FW大久保嘉人が横浜FCのゴール前で、いつものように相手との駆け引きを制していたからだ。 敵地・ニッパツ三ツ沢球技場を襲った雷雨の影響で、2時間遅れの午後4時にキックオフされた13日の明治安田生命J1リーグ第4節。最終的には4-1の快勝につながるターニングポイントとなった、大久保らしさが凝縮された今シーズン5ゴール目で勝ち越したのは後半15分だった。 最終ラインのDF瀬古歩夢からロングパスを受けた右サイドバックの松田陸が、前方のスペースへはたいたボールをMF坂元達裕が拾う。そして、右タッチライン際で坂元が時間を作っている間に松田が内側のレーンへ、マーク役のFWジャーメイン良の背後を突く形で走り込んでいった。 次の瞬間、坂元は対面にいたDF高木友也の股間を通すパスを、ペナルティーエリア右横に広がるスペースへ通した。トップスピードに乗った状態で追いついた松田が低く、速いクロスをワンタッチで供給するまでの数秒間に加藤は心を震わせていた。視線の先には大久保がいた。 「リク君(松田)がボールを蹴る瞬間に相手の前に入る動きは、本当にタイミングがばっちりでした」 右サイドで坂元と松田が仕掛けているとき、大久保は横浜FCのセンターバック、伊野波雅彦の死角となる背後で気配を消すように無造作に立っていた。そして、加藤が指摘した通りに、松田がクロスを放つ体勢に入るや、一気にスピードアップして伊野波の前方へ飛び込んできた。 虚を突かれた伊野波の反応がわずかに遅れる。しかし、ゴール前では一瞬の差が、天国と地獄とを分ける。クロスの落ち際を見極めた大久保は宙を舞い、追いすがる伊野波を自身の身体でブロックしながら、スプリントで生み出された勢いを、頭を介してすべてボールに叩きつけた。 公式記録では「ヘディングシュート」となっている今シーズン5ゴール目はおそらく顔面で、文字通り執念で押し込んだものなのだろう。チームメイトたちと喜びを共有した後に何度も鼻のあたりを気にしていた大久保へ、加藤はピッチの外からあらためて憧憬の思いを注いでいた。 「ゴールを決めるときには、ボールが来る前に常にいい動きをしている。あの動き出しは見本として、いつもDAZNなどで振り返りながら勉強させてもらっています」