約1,000個の豆大福が午前中で売り切れることも。 老舗和菓子店〈松島屋〉の豆大福ができるまで
東京・泉岳寺に店を構える1918年創業の老舗和菓子店〈松島屋〉。看板商品の豆大福は1日に約1,000個が売り切れるほど人気で、開店前から多くの人が行列を作ります。粒あんがぎっしりと入って、程よい塩味のきいた名作大福はいったいどのように作られるのでしょうか。
東京きっての名作大福ができるまで
朝7時。店を訪ねると、ガラス扉の隙間から小豆を炊く柔らかな香りが漏れてくる。扉をノックしたら、満面の笑みで三代目店主・文屋弘さんが出迎えてくれた。
1918(大正7)年創業、閑静な高輪の住宅地にある〈松島屋〉は、東京を代表する豆大福で知られる和菓子店だ。初代が宮城県の出身であり、屋号は故郷の名勝・松島から。草大福やみたらし団子を扱う餅菓子の店で、中でも豆大福は日に1 000個を売り切る看板の品。ごく薄く包んだ歯切れのいい餅生地の中に粒あんがギッシリと詰まっていて、豆の香り豊かな餡はほどよい甘みとともにキリッと塩みが効いている。その塩梅が何ともカッコいい。
「作り方は創業者の祖父のころから特に変わってないんですよ。僕は同じやり方を続けているだけ。変えなくていいものってあると思うから」と文屋さん。作業場では石臼の餅つき機や小豆の絞り機、大福をのせる餅板など、初代から受け継ぐ道具が今も大事に使われている。
餅生地を作るのは店主である文屋さんの仕事。甘みと弾力性に富んだ宮城県産「みやこがね」を蒸籠で蒸し、「力のある餅ができる」という御影石の石臼で搗いていき、富良野産赤エンドウ豆をたっぷりと投入する。皮が薄く風味豊かな赤エンドウ豆は、煮るのでなく、蒸すことでより味わいが引き出せるそう。
餡は上白糖とザラメ、さらに塩を合わせて味を決め、銅鍋で約40分練り上げる。小豆のさらしや汁気を絞る工程も、驚くほどの手作業だ。ちなみに店の特徴である餡の味は、初代の頃、坂の多い高輪で馬を引いて汗をかいた人々が店に立ち寄ったことから、塩分補給のために塩気を効かせたのが始まりだとか。最後は餅が熱いうちに、店主を含む4名で包んでいく。その早いこと早いこと!