「薬草料理」ってどんな味? 岐阜・飛騨市で納涼会席を!
大鍋でつくったドロドロの「薬草出汁」
「しかし本当に薬草が有効なのか。私は孫で実験をしたんです」 孫で実験!? 女将さんの驚きの発言に、私は身を乗り出した。 「私の娘が妊娠したときから彼女に薬草茶を飲ませ、薬草料理をつくって食べさせました。すると娘の体質が改善し、生まれる前から薬草を吸収した孫はとても丈夫で元気に育っています。薬事法に引っかかるので『これが効きます』とは言えませんが、本当の体験だったら話しても差し支えないかと」
修子さんと入れ替わりに、ご主人の嗣二さんが薬草出汁(だし)をとった大鍋を運んできた。 「よっこらしょ。私はこれを体に役に立つ“役草”出汁と呼んでいます」 これがどの料理にもつかわれていた出汁か。鍋の中にはいま、いただいた繊細な料理に似つかわしくないドロドロに溶けた野草が沈んでいる。恐る恐る顔を近づけてもきつい匂いはなくセリに似た香りがかすかにした。 いったいなぜご主人は薬草料理を料亭で出すようになったのか。 「それも村上先生にお会いしてからですよ。いまから10年前、先生から『薬草料理をつくってみないか』と声をかけていただいたんです」 ちょうど10年前、2014年の年末には飛騨市で全国薬草シンポジウムが開催されることになっていた。そこで発表するべく、北平さんは山で採ってきた飛騨の薬草をつかって、50種類の料理を徹夜でつくった。渾身の創作料理の数々を見て先生は喜んでくれるかと思ったが、意に反して「幼稚園の料理だなあ」と笑われてしまう。 「そもそも薬草料理は『臭い、まずい、えぐい』もの。そういうイメージがあったので、自分では『薬草料理にしてはよくできたんじゃない?』と自己満足していました。ええ、ちょっとなめていたんです(笑)。しかし、先生の求める薬草料理は『これが薬草?』と思わせるくらいおいしい料理。『薬草は毎日食べてこそ効果があるのに、おいしくないと続かないでしょう』と」 天狗になった鼻をぽっきり折られた北平さんであったが、先生の正直すぎるひと言によって料理人魂に火がついた。それからというもの、薬草料理研究に猪突猛進。あれから10年、どこよりもクオリティーが高い薬草料理は評判となり、やがて全国から客が訪れるようにった。 いまでも新作に取り組んでおり、「これも食べてみてよ!」と持ってきてくれた「ドクダミソースがけヤギ乳のクリームチーズ」(下写真)は、レシピを聞いただけで鼻をつまみたくなるが、とにかく一生に一度は食べてみてほしい。濃厚×濃厚の大傑作だ。