「薬草料理」ってどんな味? 岐阜・飛騨市で納涼会席を!
立派な古民家の暖簾(のれん)をくぐると、にこやかに女将の北平修子さんが迎えてくれた。それにしても見事な木造建築。創業当時からの建物かと尋ねたところ、女将さんは首を振る。 「明治時代に創業して以来、ここにあった建物は、平成16年(2004年)の大水害で流されてしまったんです。そこで、当店の創業より早い天保6年、いまから180年前に建てられた河合村の農家を譲っていただいてここに移築し、玄関部分にしました」 なぜ新築せずに、前の建物よりもさらに前の時代の古民家を移築しようと考えたのか聞くと、「昔の民家は、雪の重みに耐えられるようにしっかりつくってあるので丈夫で長持ちなんですよ」と女将さん。そう考えると昔の民家は実にサステナブルにできている。 廊下を通って蔵を改造した部屋に案内されると、ほどなく薬草料理が運ばれてきた。薬草というから、どれも茶色か緑で、強烈な匂いがするおどろおどろしい料理を想像していたのだが、予想に反してなんとも涼しげでカラフルな色どり。食欲をそそる。 「これらすべてに薬草出汁を使っています。今日はミナモミ、スギナ、クワ、マツにハトムギです」 女将さんの説明に、この美しい見た目とは裏腹に、苦くて思わず顔をしかめてしまう味なのだろうと、私は腹をくくった。
ではさっそく薬草出汁で煮たという冷製トマトを……おや? なんだ、この5月の高原のようなさわやかな味は。ミネラル豊富な「えごま」のプチプチ食感と、ミントに似た清涼感のある薬草「カキオドシ」の葉が実にいい仕事をしているではないか。 ホッとして、焼き茄子やオクラなど季節の野菜を寄せたゼリーに箸をつける。これまた、いったいどこに薬草が入っているのかわからないが、「イノコズチ」とやらがつかわれているらしい。それはどんなものかとスマホで調べてみれば、昔むかし、田んぼのあぜ道なんかを歩いていると、いつの間にかイガイガした種がズボンの裾や靴下にくっつくことがあった。私が「ひっつき虫」と呼んでいたやっかいなアレだと知って驚く。イノコズチにこれまでの無礼を詫びたい。