「トランプvs.バイデン」勝ったらそれぞれ市場はどうなる?
トランプ大統領とバイデン前副大統領が戦う米大統領選は11月3日の一般投票に向けて佳境を迎えています。世論調査ではバイデン氏が優勢と伝えられる中、市場はどちらの大統領を望むのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストにそれぞれが就任した場合の米経済を展望してもらいました。 【ビジュアル企画】3分でわかるトランプvs.バイデンの争点――次の4年を占う、70代の頂上決戦
「トリプルブルー」と「トランプ逆転」に備える
米大統領選が間近に迫ってきました。金融市場ではバイデン大統領の誕生及び同時に行われる議会選挙で民主党が上下両院を制す、いわゆる「トリプルブルー」に備えると同時に、4年前の教訓を生かしトランプ大統領の逆転勝利も想定に入れているように見え、マーケットのポジションが大きく傾いている様子はありません。 もっとも、4年前の大統領選後に株高となった経緯から、今回も同じ展開を見込む向きは多い印象です。株価は「どちらが勝っても不透明感の後退によって上昇する」との声をよく聞きます。一方で金利の見方はさまざまです。4年前は米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め(政策金利引き上げ)局面だったこともあって金利上昇が鮮明でしたが、今回は複雑です。 民主党のバイデン氏が勝利すれば大規模経済対策を見込んだ債券売りが膨らむとの見方もありますが、FRBの大規模国債購入によって金利上昇圧力が吸収される可能性もあり、大幅な金利上昇にはならないとの声も根強くあります。トランプ大統領が逆転勝利した場合も、「議会のねじれ残存=(1)上院:共和党、下院:民主党(2)上下両院とも民主党」によって景気対策の予算規模が膨らむ可能性は十分にあり、その場合(トリプルブルーほどではないにせよ)金利上昇圧力がかかる可能性もあります。
景気回復の初期局面だった2016年大統領選
ここで4年前との相違点を確認しておきます。盲点なのは、4年目は大統領選を景気回復の初期局面で迎えていたことです。2016年半ばまでは中国経済がもたついていたほか、英国のEU離脱(ブレグジット)決定もあり、世界景気は下降トレンドにありました。 世界経済の強さを示すグローバル製造業PMIは2~5月にかけて50近傍まで水準を切り下げていました。一般的に、この指標は50を下回ると景気が弱いことを示します。しかしながら、夏場になると世界景気は底打ち感がみられました。グローバル製造業PMIは10月に51.9まで上昇し約2年ぶりの水準へと回復しました。こうした明らかな改善傾向が示される中で11月の大統領選を迎え、その後12月には52.6へと水準を切り上げ、一段と回復が鮮明化した経緯があります。 2016年大統領選後の株価上昇は「トランプトレード」とも称されましたが、冷静に考えると株価上昇の背景にはファンダメンタルズの改善がありました。もちろん、これはトランプ政権の功績ではなく「運」によるところが大きいのですが、いずれにせよ景気の風向きは順風で株高を正当化する材料があったのは事実です。 その点、今回はマクロ動向が不明瞭で、株高の素地があるとは言い切れない部分があります。大統領選後に不透明感の後退から株価上昇といった見方が根強いものの、目下の新型コロナウイルスの感染状況などに鑑みると、グローバル製造業PMIが一段と水準を切り上げていく姿は想像しにくく、株価上昇を正当化するマクロファンダメンタルズのモメンタム加速には今一つ自信が持てません。
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