ハービー・山口の写真人生【後編:美化することなく生で伝えたい】
70代にしてなお積極的に仕事を創出し写真家としてネット時代を生き抜くハービー・山口さん。前編では少年期からロンドン時代まで写真との出会いを振り返ったが、帰国後も国内アーティストとコラボしながら市井の人々にカメラを向け続けてきた。ハービーさんの写真を見ると、意識的に“絵”的な美しさや面白さを表現するというよりも、どんな人を撮っても常にストレートに撮っているように見える。そこにはハービーさん流の人や写真との向き合い方があった。
サヨちゃんへの恋心が教えてくれた「生のままが一番美しい」
「粒子を荒らしたりレイヤーを重ねたり現代美術調にやったりと、表現的な方向性を重視するのか。そういうものは関係なしに生のままストレートに撮るのか。人それぞれだと思うんです。たとえば漁師さんと漁船に乗って1年に1回しか釣れない魚が釣れた。これは築地とかにはぜったい行かないんです。漁師さんが『いま捌いてあげるからそのまま食べてごらん』と。醤油もワサビもしゃれたお皿もなくていい、きれいなインテリアのお店に行かなくてもいい、これはストレートですよね。僕には僕の距離感でミュージシャンの方たちがいたわけです。それならそのまま、その方の今の目線を汚さないように撮りたい。僕のカメラで複写するだけで十分だと思ったんです。ダイアナ妃の写真も『もっと笑ってくれませんか』なんて言わなくても、そのままが良いと断言できるくらい強烈な被写体に巡り合ったわけです。そうするとストレートが一番。もちろん自分なりのコントラストだとかいろんな手法はあるわけでそれらを否定するわけではありませんが」 もう一つ、ハービーさんが二十歳の頃に撮ったという中学生の女の子の写真について話をしてくれた。 「13、14歳くらいでバレーボールをしている彼女を見かけ撮らせてもらった。ボールが僕に当たりそうになったとき『あっ、当たったら痛いから避けて!』って訴えかけるような優しい目を必死でしていたので僕は『えっ?』ってボールを間一髪で避けることができた。でもその代わりに撮ることができなかったあの訴えかけるような優しい表情が忘れられなくて。『あの表情が撮れていたら見る人たちの心が優しくなるような写真が撮れたはずだ』っていまでも思っています。そこから50年経ったんだけど、いまでも写真やっている理由の1つは撮り逃した優しいあの目を世界のどこかで見つけて撮りたいからだっていうのがあるんです」