ハービー・山口の写真人生【後編:美化することなく生で伝えたい】
ハービーさんのGLORIOUS DAYS
その子の名はサヨコ。彼女をめぐっては淡い恋のエピソードが知られる。 「1年後に同じ公園でサヨちゃんにまた出会って、また撮らせてもらった。そのとき、ちょっと恋心が芽生えたんです。僕が二十歳で彼女が14歳。バイクで横浜に行った。その後、僕はロンドンに行っちゃった。布袋寅泰さんのソロアルバム『GUITARHYTHM』の8曲を僕が作詞しているんですがそのうちの1曲『GLORIOUS DAYS』。布袋さんファンには有名な曲です。2年前にあるテレビ局の番組でこの子を探して50年ぶりに逢ったんです。それで新宿で写真展もやったんです。その時のテーマが50年前の写真と最近の写真を2段重ねで出して、そこでご本人の写真も出しまして、彼女はそこにも来てくれた。そのいきさつを知って彼女はびっくりしていました。そういった人生のいろんな出会いだ別れだ、また再会だ、偶然だったり、これは生のまんまですよね。生のまんまで十分美しいと思った。だから生のまんまが一番美味しいんです」
デジタル時代になってもストレート「無理に美化はしない」
手軽に写真を加工できるデジタル時代になっても、撮り方はストレートのまま。50ミリの標準レンズで人を自然な形で捉えていく。 「50ミリが自然なんですよね。あまり遠近感も強調されないし圧縮効果もない。トリミングも一切しません。僕は白黒で撮りますから暗めに撮っておけば明るい部分が飛ばないからハイライトをちょっと抑える工夫はするとしても、レイヤーで重ねたりとか、そういうことはしません。今はアプリでボタン押せば冬景色になったり、それはそれでいいと思うんですけど、私はいろんな人と偶然の出会い、巡り合わせ、それを無理に美化することなく生で伝えたいんです」 コロナ禍でマスク姿の人々を撮った「TOKYO EYES」の中にピアニスト・五十嵐薫子さんの写真がある。新幹線の前の座席に偶然、五十嵐さんが座っていた。このときが初対面。後ろを振り返る五十嵐さんが窓からさすほのかな明かりに照らされて目が優しく微笑んでいる。 「これはツイッターで五十嵐さんがつぶやいてくれたら120万人の人が見てくれました。撮るまでは見ず知らずの方だったのですが声をかけて撮らせてもらって、五十嵐さんも喜んでくれる。『世の中そういうこともあるんだ、すごいぜ、まだ捨てたもんじゃないぜ』って思える。そういう出会いに恵まれているわけだから、いろんな手法は重ねなくてもいいのかなって思います。何か無理に物語にしなくてもいい、事実だけを述べる。それがストレートで良いかなって思っています」