児童書大健闘、小学館の様々な取り組み
アクセシブル・ブックス事業室の取り組み
最後に、アクセシブル・ブックス事業室の木村匡志課長にも話を聞いた。2019年に施行された読書バリアフリー法に則って2021年に創設されたアクセシブル・ブックス推進室が前身となる部署(2023年10月改称)だが、3つの役割を担っているという。 「1つは刊行物のアクセシブル対応、2つ目はウェブサイトのアクセシブル対応、そして3つ目は、これが重要なんですが、読書バリアフリーとかアクセシビリティといっても、まだ出版関係者も十分理解していないところがあるので、情報収集や社内啓蒙です」(木村課長) 読書バリアフリーについては本誌前号の「『ハンチバック』の衝撃と読書バリアフリー」を参照いただきたいが、芥川賞を受賞した市川沙央さんが訴えたのがまさにこれで、小学館は早くから部署を作って取り組んできたわけだ。市場が拡大しているオーディオブックへの取り組みもこの部署で、室員は現在、木村さんを含めて3人という。 「読書バリアフリー法は、読書困難者とされる人たち、例えば視覚障害者や、本を手で支えて読めないとか、車椅子の生活で書店や図書館に行けないなどの肢体不自由の方も本の中身や情報にアクセスできるようにするという法律で、そのために出版社ができることは、一つは電子書籍化ですね。電子化することで、タブレットなどで読めるし、文字を拡大したりできます。腕が使えない方には、視線や音声でページめくりをアシストする機器やアプリがあるんですね。そのほか、オーディオブックも有効な手段の一つと言われています」(同) オーディオブックについては出版界でも取り組みが進んでおり、本を俳優や声優が読み上げたものが商品化されている。移動中の車内や家事をしている台所で、スマホの音声によって書物に親しむという営みが広がっているのだ。 「この数年でオーディオブック市場は大きく伸びているんですが、スマホの普及によるところが大きいと思います。これは世界的な流れで、英語圏、特に北米と、中国語圏も大きな市場です。 電子書籍と同じようにオーディオブックの配信ストアで販売されていますが、日本で一番知られているのはアマゾン傘下のAudibleで、ここが今は売り上げのトップです。 一方で、本を音声にしたものにはオーディオブックと別に、“音訳”と呼ばれる、障害当事者向けのサービスとして公共図書館や点字図書館などがボランティアの力を借りて作っているものもあります。 私たちは、基本的にはオーディオブックをビジネスとして展開することを管轄する部署なんですが、点字図書館やサピエを利用している人たちのニーズがどこにあるか、何が必要とされているのかも知る必要がありますので、いろいろな勉強会に出たり、当事者の方のヒアリングなどを行ったりもしています。 オーディオブックとは、人が読み上げたのを録音して固定したものですが、そのほかに音声合成の自動読み上げ技術を使って音声化する方法もあります。例えばKindleでは、出版社側が了解したものに関しては、そのデバイス機能を使って音声読み上げが可能になっています」(同) 小学館のオーディオブックでよく利用されているのは、やはり紙の本でも人気のあるものだという。 「例えば『謎解きはディナーのあとで』などの映像化作品は、やはりよく聞かれています。一方で、紙であまり売れていないのにオーディオブック版がよく聞かれるケースもあるので、何が理由で聞かれたのかを調べて、そうした情報も参考に、いろいろなタイプのものを今オーディオ化しているところです。 自社の刊行物がベースになってるオーディオブックが数百点、そのほか青空文庫作品もオーディオブック化していますので、全部合わせると累計で1200点ぐらいになっています。これは、オーディオブックを出している日本の出版社の中では多いほうではないかと思います」(同) アクセシブル・ブックス事業室の仕事は、まだ一般的には知られていないが、小学館は40年前の1983年から視覚障害児のための学習絵本『テルミ』を隔月ながら定期刊行している。 冒頭で報告した児童書の圧倒的成功も含め、小学館は今後、どうなっていくのだろうか。