マガジンハウスの広告増と新たな挑戦
新書創刊やマンガへの参入と新規事業にも取り組んでいるマガジンハウスだが、紙の雑誌とデジタルいずれも広告が好調という。 そして今、『つかめ!理科ダマン』という新たなヒットの萌芽が…(編集部)
新たな鉱脈となるか、『つかめ!理科ダマン』
「一番大きかったのは、韓国で出ている学習まんがを翻訳出版した『つかめ!理科ダマン』ですね。既に5巻まで出版していて計33万部です」 そう語るのはマガジンハウスの鉄尾周一社長だ。12月13日の株主総会と役員会を経て社長に就任した。このインタビュー時点では専務だったが、書籍部門の責任者として2017年に『漫画 君たちはどう生きるか』というミリオンセラーを放つなど貢献度の大きさから次期社長と目されてきた。 その鉄尾さんが担当していた書籍局が2023年に放ったヒットが、その『つかめ!理科ダマン』だ。マガジンハウスにとっては、とても意味のある出版と言える。 「実は1巻目を刊行したのは2年ぐらい前なんです。韓国では当時、ベストセラーになっている学習まんがというので、版権をいただいて刊行したのですが、あまり出足は良くありませんでした。 朝日新聞出版さんが『サバイバル』シリーズという、大ベストセラーの韓国の学習まんがを刊行しているので、それをめざそうと思ったのですが、最初は2巻までしか契約していませんでした。 ところが、我が社の宣伝担当が、SNSを使った広告を試しにやってみたいということでやったところ、一気に火がついたのです。児童書はもともと実際に買っているのは親ですから、30~40代の親に対してSNSによる宣伝は効果があったのかもしれません。 このまんがは、科学の疑問に迫るというものの、一風変わった家族が登場して、ギャグ満載なストーリー設定なので、最初はそれが受け入れられなかったのかとか考えましたが、ともあれ2023年に急激に売れたのです。この年は児童書がトーハン調べのベストセラー1位になりましたが、子ども向けの本が出版界の大きな柱になりつつあるという現実を身をもって体験した感じでした。 マガジンハウスからは、ミリオンセラーになった『漫画 君たちはどう生きるか』も以前刊行されていますが、宮崎駿監督のアニメ映画の影響でこの本も2023年はよく売れました。 『つかめ!理科ダマン』はシリーズになっていますから、今後、巻を重ねていけば大きな売り上げになっていくと思われます。アニメ化の話も出ているようなので期待しています」(鉄尾社長) シリーズものは当たるとかなり大きな鉱脈になるのでマガジンハウスにとってはとても大きな出来事だ。 それ以外の書籍についても聞いた。 「ウェブメディアのnoteで人気だった酒徒さんのレシピをまとめた『あたらしい家中華』を10月に出して、それが12月現在、5万部くらいまで行っています。 それから吉岡里帆さんの写真集、松下洸平さんの写真集も堅実な売れ行きだったですね。 あとは『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』という山内マリコさんの小説や、ジェーン・スーさんの『おつかれ、今日の私。』というエッセイも、発売は22年ですが、よく売れました。 23年5月に出た稲垣えみ子さんの『家事か地獄か』も売れています」(同) マガジンハウスは22年1月から新書を出し始めたのだが、最初の五木寛之さんの『捨てない生き方』ほど大きくはないが、23年は『激安ニッポン』(谷本真由美著)も4刷2万1000部とよく売れているという。 雑誌はどういう状況だったのか。 「雑誌はやっぱり『アンアン』と『ブルータス』が全体を牽引しており、それに『&プレミアム』が続いたという感じです。 『アンアン』は以前からW表紙というのをやっていましたが、今はそれがさらにパワーアップして、3種類の表紙の号もありました。例えばタレントさんの表紙がメインで、もう1冊はアニメの表紙、さらにもう1冊は宝塚のスターの表紙で3冊書店で並べて売ったりしました。 週刊誌で3種類の表紙の号を作るのはとても大変なのですが、それぞれの表紙で違った読者を開拓することもあるし、トータルで言うと売り上げは伸びるのです。『アンアン』は23年も大きな利益を上げています」(同) マガジンハウスの雑誌はブランドが確立していて広告に強いのだが、コロナ禍があけて、雑誌広告も増えているという。 「大きかったのは『GINZA』の広告がかなり伸びたことです。デジタル広告がうまくいって評価していただき、芦谷編集長がこまめにクライアントとコミュニケーションをとっていった結果が表れたのだと思います」(同)