食べられない子どもたちの現実 “SOS”を見逃さないために大人ができること
「晩ご飯は一応食べたんですけど、おかずは大学芋しかなかったのでお腹が減って……」 学習塾を運営していると、ふとした瞬間に生徒の家庭状況を垣間見ることがある。塾である以上、学力の向上が一義的な目的だ。しかし、生徒らが発する有言無言の“SOS”を見逃さず、できる限りの支援をすることも大きな柱としている。今回は、自宅で食事をまともに食べることができない子どもたちの現実を紹介したい。(食事付き無料学習塾・濱松敏廣塾長)
余ったカレーで知ったSOS
この日の出来事は、朝食として用意したカレーが手つかずのまま20人分ほど余ってしまうという想定外のハプニングが起き、私が夜になってから気付いたことに始まる。数年前のことだ。 当時、筆者は東京・新宿のマンションの一室で、運営する無料塾の塾生や近隣の小・中学生を対象に無料の朝食カレーイベントを週2回ほど行っていた。 慌てた私は塾生をはじめとする子どもたちに、午後8時を過ぎてからメールで緊急夕食会を呼び掛けた。すると、急な連絡にも関わらず午後9時を過ぎた頃からお腹を空かせた子どもたちが10人ほど集まって来た。その中には朝食カレーイベントの常連で、塾生でもある中学2年男子A君とその妹Bも来ていた。 「突然の連絡だったのに、来てくれて良かったよ。ところでA君の家は晩ご飯、いつもこんなに遅いの?」 中学1年時から当塾に通う彼に対し、何気ないコミュニケーションのつもりで質問をしたところ、彼の口から冒頭の発言が出た。 痩せ型とは言え身長170cmを超えている彼から、まさかそこまで厳しい食生活に関する話を聞かされるとは想像をしていなかった。正直とても面食らった。 他の子どもも居合わせていたこともあり、その場では平常心を装ったが彼の食生活が内心とても気になった筆者は、この日の状況が彼の日常ではないことを祈りつつ、後日改めて話を聞くことにした。しかし、残念なことに実態はもっと深刻だった。彼の保護者は諸事情から睡眠薬を日常的に服用しており帰宅後に寝てしまうことがあるため、家での夕食はご飯が炊かれているだけ。ご飯すら忘れられている時があると言うのだ。 当塾では貧困やネグレクトなど家庭に事情を抱える生徒を優先的に受け入れる目的から、入塾時に保護者から課税証明書や世帯全員記載の住民票、食事や学校生活に関するアンケートを取る。そのため一般的な無料塾よりも塾生の日常生活を把握している自負もある。保護者の生活実態について詮索することはしておらず、する予定もないのだが、A君のように生徒本人が我々を信用してSOSを発してくれる場合はその家庭の暮らしぶりをうかがい知ることになってしまう。 我々の活動の一義的目的は子どもたちへの学習支援だ。コロナ禍を受けた今年の4月には学習支援を継続するため全面的なオンライン授業への切り替えを決断した。さらに、人数制限や検温・アルコール消毒に加えて、支援企業の協力のもと有名病院に導入されている機器と同型の紫外線殺菌システムを各自習室に設置することはできた。 一方で、食事の提供も引き続き行えるよう、9月からは新たな活動拠点を都内に開設した。目下の課題は食事支援の方法や頻度に尽きる。