風呂場にもメモ帳を持ち込んで──サッカー日本代表・森保一監督の“一日”
ドイツ戦の逆転劇は「原点に立ち返っただけ」
あの決断はいかにして生まれたのか――。 「ドーハの奇跡」とも呼ばれたカタール・ワールドカップ、ドイツ代表との一戦。前半に先制されて一方的な試合展開となったが、森保は後半に入ると同時に4バックから3バックに変更。ゴールを挙げた堂安律、浅野拓磨ら次々と攻撃的なカードを切ってドイツ相手に逆転勝利をもぎ取った。森保の采配がズバリと当たった。 すべては積み重ねてきたことが自然にアウトプットとして出た。少なくとも森保はそう捉えている。 「相手の戦い方は想定内でしたし、(システム的に)相手との噛み合わせが悪くても、形まで変えてしまうとボールのつながり方自体も変わってきてしまうので、モデルチェンジよりもマイナーチェンジで対応したほうがいいというのがこれまでの自分の基本的な考え方でした。でも選手たちとコミュニケーションを取ってきて、所属クラブでガラリと戦術を変えても対応している選手が多かったので、劇的にモデルチェンジしてもマイナスじゃなくプラスになるという価値観が自分のなかにも生まれていました」
「マッチアップについても、シンプルに考えればそれぞれ1対1で上回っていければ勝つ確率が高まります。それができるメンバーでもある。ただ、バラバラに1対1を10個並べてもリスクがあるので、味方同士もっと距離感をよくしてやっていこうよ、と。ドラスティックに変えたとも言われますが、僕としてはあくまでも戦いの原点に立ち返っただけという感覚なんです」
本当はサッカー選手でずっといたい
私欲はない。日本サッカーのため、という彼の言葉に一切の混じり気はない。そうでなければ、負ければたたかれる、あるいは勝っても内容がダメだと批判される日本代表監督の仕事を「ハッピージョブ」だなんて言い切れない。 「本当はサッカー選手でずっといたいんです。体力的に実力的に限界がきて、この気持ちをどう整理するかといったら、好きなサッカーにどうやって携わっていこうかと気持ちを切り替えました。サッカーに携われるだけで幸せ。試合に臨むときに君が代を聞いて、日の丸を背負って戦える喜びを感じられるのは選手のときと何ら変わりません」 6月の親善試合が終われば、7月にようやく短いオフを取る予定だという。いつも支えてくれる妻との時間に充てたいと考えている。 「嫁さんに、今度の休みに何か欲しいものある?って聞いたら、あなたこそ自分のものを何か買いなよって言われたんです。でも特にないんですよね。唯一やりたいのは犬の散歩くらい(笑)。すべてはサッカーで満たされているので」 ヘアスタイルも、サッカーへの思いも、日常生活も。 森保一は変わらない。これからもずっと――。