「手術・診断」なし…広がる性別の自己申告制「セルフID」 ヨーロッパで何が起きているのか?
■揺らぐ「DVへの対策」
影響は、DV=ドメスティック・バイオレンスへの対策にも及んでいます。スペインは先進的なDV対策を行っていることで知られ、女性に対するDVは「性差別的暴力」として、通常の暴力よりも厳しく処罰されます。しかし、男性が女性へと性別変更したのち、元配偶者に嫌がらせを続けているケースが問題となっています。 この事件でDVを専門とする裁判所は「加害者が“女性”に性別変更した以上、DV裁判所としては扱えない」と判断しました。さらに地元紙は、女性となった別の加害者が、DVシェルターにいる被害者に接近を試みたと思われる例が3件あった、と報じています。こうした問題から、DV加害者の性別変更を禁止するべきだという主張も出ています。 私たちは、もう一度、トランスジェンダー・ヨーロッパのケーラーさんに尋ねました。ケーラーさんは「虚偽の性別変更に対しては、苦情申し立ての法的手段が用意されている。悪用は、優れた法律の適用を制限する理由にはならない」と話します。
■思春期の少女の違和感
2019年までスペインの国会議員を務め、自身がレズビアンでもあるアルバレスさんは、「診断なしの性別変更」に反対しています。心配しているのは、「自分を『トランスジェンダーだ』と考える少女が、他の年齢層や、男性に比べて増えていること」です。地元メディアによると近年、性別への違和感を訴える人の多くが「15歳から24歳の若い女性」です。アルバレスさんは「思春期に少女が体の変化に違和感を覚えるのは自然なこと」だとしたうえで、「その違和感を解決しようと『性別の変更』を軽率に選んでしまった場合、彼女たちにホルモン治療や手術への道を開くことになる。思春期のまっただ中にホルモン投与を始めてしまったら、彼女たちの未来を壊してしまうことになる」と懸念を示しています。 これに対し、国際NGO「トランスジェンダー・ヨーロッパ」のケーラーさんは「このような意見は、根拠がなく有害なうそを助長する」と批判します。「医療的措置を行うかどうかは、法的性別の自己決定とは関係がなく、専門家の慎重な監督により管理されている」と話しています。 性自認を尊重する機運の広がりを受け、社会がどう対応していくのか。そして、日本ではどのような制度を作るのか。トランスジェンダー当事者も、そうでない人も生きやすく、悪用されにくい制度のあり方について考えていく必要があります。