「手術・診断」なし…広がる性別の自己申告制「セルフID」 ヨーロッパで何が起きているのか?
■「診断なしの性別変更」…悪用の恐れは?
一方で、「診断なしの性別変更」が性犯罪目的で悪用されるなどの危険はないのでしょうか。ケーラーさんは、犯罪については「性別変更とは全く関係がない」と強調します。「性犯罪のほとんどは、生まれながらの性別に違和感を持たない“シスジェンダー”の男性が引き起こしている」との認識を示したうえで、「トランスジェンダーが利用する『診断なしの性別変更』と結びつけるのは的外れだ」というのが、その理由です。それだけではなく、ケーラーさんは「トランスジェンダーの人々こそ、過剰に暴力や敵対者による攻撃を受けている」と強く訴えています。
■スペインでは“混乱”も…
ただ、問題がないわけではないようです。スペインは2023年から、診断なしでの性別変更を導入していますが、地元紙「エルムンド」によると、マドリード市で、男性から女性に性別を変更した2人の救急職員の存在が物議を醸しています。 この2人はもともと兄弟で、女性の外見になる性別移行はしておらず、SNSでも自身を「男性」と紹介していると報じられています。“女性”に性別変更をした2人は、職場の女性用更衣室で裸になって着替えており、シャワーやトイレも女性用を使用。これに対し女性職員100人以上が「プライバシーを侵害されている」と感じ、市に抗議の書簡を送りました。書簡で職員らは、「性的マイノリティーとすべての人の権利の平等を尊重する」と前置きしたうえで、手術なしで女性に性別を変更した人のための「第3の更衣室」を解決策として提案しています。ただ2人は「自らの権利だ」と主張し、着替えに個室を使用するという妥協案も拒否しているということです。 マドリード市は私たちの取材に対し、報道にあった事案が事実であると認めたうえで、「新たに個室を設置したが、2人が女性用更衣室に入ることを妨げることはできない。その行為自体は法律違反ではないからだ」と回答していて、対策に苦慮している様子がうかがえました。