モンゴルで伝統儀式を担う祈祷師たち、なぜか多いラッパーからの転身 儀式で天から降りてきたのは酒好きの陽気な“ご先祖さま”だった
モンゴルラップの先駆け的存在から、最も人気があるシャーマンとなったのが共に40代の夫婦、バヤラーとニャマーだ。 夫のバヤラーは、1990年代の西洋音楽流入期、ライブを開いても「観客が7人だけの日もあった」という。「過激で汚い言葉を使って、モンゴルでのさばり始めた中国人を批判した」「今はまともになったが、自分もチンピラだった」。バヤラーは、照れながら当時を振り返った。 最近は「モンゴルの自然や伝統の素晴らしさに若者が気付いてほしい」との思いから、自然回帰を訴える。「シャーマンの後継者」という曲で2人は歌った。「カラス、オオカミ、蛇、ワシのよろいを身にまとい、天から精霊を呼び招く」 幼い頃から「不思議な能力があると言われた」妻のニャマーが主に祈りとお告げを担当する。よく当たるとの評判が広がり、一般市民から政治家まで相談が殺到する。 「金銭問題から家庭の不和まで、相談者の祖先と話をして正しい道を伝える」とニャマー。
半面、2人の悩みは同業者のねたみだと明かした。シャーマンとしての人気をうらやむ同業者が「私たちに呪いを掛けようとしている」と真顔で話した。年齢を正確には明かしてくれなかったのも、この心配からだった。「名前はもうみんなに知られている。その上で生まれた年月が分かってしまうと呪いが掛けやすくなる」と頑として教えてくれなかった。 インタビューの間ニャマーが座っていたのは、金色のコブラ7匹が彫り込まれた重厚な椅子だ。仏画も多く飾られた2人の部屋には、モンゴルの混沌と伝統が行儀よく共存していた。