モンゴルで伝統儀式を担う祈祷師たち、なぜか多いラッパーからの転身 儀式で天から降りてきたのは酒好きの陽気な“ご先祖さま”だった
社会問題に取り組もうとするのは、モンゴル人ラッパーに共通する特長でもある。 ナルマンダホは人気があった時期に酒に溺れ始め「強い酒のために体を壊してしまった」という。酒は約1年前にやめて、最近新曲を発表したばかり。アルコール過剰摂取の悩みを抱えていた自分自身も含め、社会と人々に向けて音楽と祈りで答えを模索し続けている。 ナルマンダホと話していて気付いたのは、シャーマニズムへの真摯な取り組みだ。ラッパーとして人気を得たり、酒に溺れたりした紆余曲折の後、シャーマンの道も歩むことを決めたが、「その頃には準備が不十分な状態でシャーマンの道を選んでしまった」と振り返った。今は自然の中に身を置いて瞑想し、心を整えることをミュージシャンとしてのあり方にも生かしている。 ウランバートルで会ったもう1人のシャーマン兼ラッパー、ムトゥネは35歳。高校時代に学園祭で友達と歌ったのをきっかけに音楽を志した。地元の芸大で油絵やデジタル技術などを幅広く学びながら、本格的に音楽活動を始めた。
他のヒップホップバンドをこき下ろすなどとがった歌詞で人気を得たグループを経て、14年からソロ活動に入った。シャーマンになったのは16年から。ムトゥネも「生まれ持った素質がある」という別のシャーマンからのアドバイスを受けてその道を志した。 ただムトゥネの場合、祈とうに関しては少し慎重だった。自分が本当にシャーマンとしての道を生きていけるかの疑問を抱えていて、シャーマニズムよりむしろ自然と自分、自然とモンゴルの文化の結びつきを確認しているように見えた。 「ウランバートルにいると、社会の不満に苦しむ人々のメッセージが多く自分に入ってくるため、郊外に出て自然のエネルギーを感じるようにしている」という。 伝統や秩序が失われつつあるモンゴルは「暗闇の中に入ろうとしてるように感じる」とムトゥネ。「自然や天、伝統をモンゴルでどう守っていくかを考えて、音楽にも生かしていく」と、シャーマニズムとミュージシャンの狭間であるべき道を模索中だ。 ▽自然回帰