経理部サラリーマン、世界で最も過酷なオーシャンレースに挑む
2回目は海が大荒れ!
憧れのモロカイに飛び込んだが、のっけから自然の迫力に飲まれてしまった尾形祐樹。 「ひっくり返らないよう意識しすぎてスピードも落ちていたんです。で、漕ぎ始めて30分で転覆しました…」 これが尾形さんを冷静に引き戻す。 「これで周りを見る余裕ができて何人か抜いたんです」 かくして無事ゴール。トップ選手は3時間40分ほどで渡り切るなか、5時間2分。しかしこの結果でさらに心に火がついた。 「意地でも次回出てやるって。僕より遅そうな人でもすげー速いんです。だから悔しくて」 そして尾形さんの24年大会へのトレーニングが始まった。腰の不安を解消するため初動負荷のジムに通い、10kmのランニングも課した。朝は5時から漕ぎ、週末は30~40kmを漕いだ。「風が強い日は海が荒れるのでモロカイ対策で出たりもしたんです」と、妻のバランスの取れた食事を力にし、使える時間はとことんカヌーに費やし迎えた24年のモロカイ。史上最大といわれるうねりが迎え撃つ。しかし、意外にも尾形は楽しむだけだったと言う。 「モロカイソロって波乗りのレースで、波に乗れれば休めるけど、乗れないと悪循環なんです」 という言葉はレース結果が物語っていて、尾形さんよりも筋力的に劣る16歳の現地の少年はTOP10入りを果たしている。 「カラダが最後動かなくなりました」と言えるほど全力を尽くした。結果は前回を上回る4時間48分のゴール。前大会を着実に上回った。しかし尾形はなお悔しそうだった。 「目標タイムの20分を切れなかったし、台風の時しか同じような環境で練習できない。どうしようかなと。妻には来年も行くよって宣言していて。それに向けて準備しようかって、もう話をしているんです(笑)」
取材・文/渡部 忠(本誌)(初出『Tarzan』No.881・2024年6月6日、No.882・6月20日発売)