共同親権「離婚観」と「子ども観」変えられるか? 3識者インタビュー #令和の人権
離婚という「出口」の前に結婚という「入口」の議論を 嘉本伊都子さん(京都女子大学教授)
結婚が「入口」なら、単独親権・共同親権、いずれにしろ離婚の問題は「出口」の話です。 今回、共同親権に対して、反対派も賛成派も議論ができる「場」となったことはいいことです。 面会交流という言葉が離婚届に現れたのは2012 年の民法改正でした。親権者のチェック欄に記入がないと離婚届は受理されませんが、養育費、面会交流について話し合ってないと回答しても受理されてきました。これが世界一、簡単に離婚できる国の協議離婚の実態です。 今回の民法改正で養育費を払おうとしない相手に対して、優先的に差し押さえができる権利が明記されたのは、評価できます。現在、親権者が母親である割合は8割強ですから、離婚が増えるほど「母子家庭」が増えます。少子化→税収減→財政難の無限ループです。元配偶者からの養育費支払いを強化すれば、手当を払う必要性が緩和できると思った財務省からの圧力かしらと勘ぐりたくなります。 日本の家庭裁判所も、家裁の役割を拡充すると言い続けているので、この法改正で家裁にしっかり予算をつけて、本当に実行してくれるなら評価します。ただ個人的な観測では悲観的です。知人のどの家裁の調査官に聞いても、ふたこと目には「家裁には予算がないから」とおっしゃいます。本気で予算をつけるかどうか。その覚悟が、私には見えません。 離婚後、安心して面会交流ができる場所は全国にどれだけあるのでしょうか。家庭裁判所の元調査官が相談を受けているFPIC(公益社団法人家庭問題情報センター)は、全国に11カ所ありますが、全都道府県にあるわけではありません。民間の面会交流をサポートする団体に面会交流を丸投げする裁判所もあります。
共同親権問題は減少する未来が待っている?
結婚という「入口」は、両性の合意のみに基づくのであって、必ずしも男女平等を担保しません。年収しかり、家事・育児しかりです。結婚という「入口」に立ったその時から、大半の女性は不平等に直面します。結婚すると姓を変更するのは大半が女性ですが、戸籍制度と婚姻が密接に関わっている限り、男女どちらかにアイデンティティーの変更を強制します。「共同」するためかもしれませんが、「入口」から不平等を強いることになります。 2021年の最高裁は現行の夫婦同姓制度は「合憲」としました。最高裁大法廷の15人の裁判官のうち、3人の女性裁判官は連名で「96%もの夫婦が夫の名字を名乗る現状は、女性の社会的、経済的な立場の弱さからもたらされている」として、憲法に違反しているという判断を示しました。「制度のあり方は国会で議論され、判断されるべきだ」として立法の府でもある国会に投げかけましたが、「入口」については何も進みません。なぜ「出口」の共同親権だけ法案が成立するのでしょう? 経済的に不利な立場に立たされるのも女性です。既婚女性の就労継続の困難さを解決すべく、2015年女性活躍推進法ができましたが、依然、妻が第一子を生んだ前後の就労継続率は、50%にようやく達しただけです。その不利益は、離婚という「出口」後にも続きます。母子世帯の平均年間就労の収入は236万円、父子世帯の496万と比較すると2倍以上の差があります。 共同親権になった場合、離婚後もその都度、元夫婦間でいろいろ交渉し続けることになります。負の感情を持つ離婚した相手に冷静なネゴシエーションをどこまでやれるのか。離婚に至る前に、もっといえば、結婚という「入口」に入る前に、日本国民は男女間で対等なコミュニケーションをするにはどうしたらいいか、学んできたでしょうか。